「御者のもの、ありがとう。荷下ろしだけお願いするよ。終わったら早く帰るといい。ここは俺が請け負う」
「は、はいっ! かしこまりました!」
俺は、もう馬車を飛び出していた。
襲われているのは、老人が一人に、若い女性と子供の三人だ。
どうやら、コボルトの群れに捕まってしまったらしい。
俺はさっそく剣を抜き、
「ラベロ流・星影斬り!」
相手の背側へと回り、さっそく数体を切り捨てた。
魔法の適性こそないとはいえ、実家であるラベロ家は、代々王家の護衛騎士を務めてきた。
俺とて、幼い頃から叩き込まれてきたので、剣の心得はある。
コボルトたちの敵意が、一斉に俺へと集中する。コボルトは比較的、危険度の低い魔物だ。
倒すのは、どうということはなかった。
単調で、本能に任せて跳びかかってくる彼らの攻撃を読んでいなして、胴に一太刀をくれてやる。
「おぉ、なんだ、なんでこんな凄腕の剣士様がこんなところに!? わしゃ、夢でも見とるんかの」
村人と思しき老人は恍惚とした目で、俺の姿を見ていた。
俺はひっそりとまつげを伏せる。
いいや、これはそんな大したものではない。魔力を帯びさせることができない以上、いかに剣の腕が立つとも、威力は知れている。
コボルト程度でよかった、と一息つきかけたのが大間違いだった。
「……な、なんでだよ」
不意に頭上から影がさしたと思えば、黒い液体がしたたり落ちてくる。
あたりの雰囲気が、さらに悪化していた。
「みなさん、離れてください!」
これは毒性の液体だ。
ふれればすぐに肌がただれて、溶けてゆくなんて話も聞いたことがある。
そこにいたのは、大蛇・サーバントだった。俺を、いや、乗ってきた馬車ごと飲みこみそうな巨体である。
先ほど馬車で感じた瘴気に、誘われてきたらしい。