「こっちが猪肉の塩麹焼き、猪ほほ肉のクリーム煮、こっちは小麦をお湯でこねて作ったパスタ麺、それから奥のスープは鷄出汁。骨を葉物野菜と煮込んでアクを取り除いてて――」

……と、まぁこんなふうに。

厨房に入った途端、アリスは人が変わったように、自信満々になった。

猪肉の質がかなりよかったらしく、彼女は鼻息を荒くして調理にかかる。

この間、山に設置した仕掛けで、今朝方仕留めたばかりの肉だ。
彼女は魔法を利用し肉の熟成までもできるらしく、すでに最高の状態になっているらしい。

まさか、あの仕掛けが、こうもすぐに活きてくるとは思わなかった。

「4000年前の調理器具があるなんて! どうして?!」
「俺とシンディーで、錬金していたからね」
「ありがとう、二人とも! あとは任せてね」

アリスは慣れた手つきで、いくつもの料理を作り上げていく。

その手つきに見惚れていたら、あっという間だった。

いつの間にか、食卓の上はたくさんの皿で彩られている。

それにしても、

「アリスちゃん。作りすぎですわよ、これ」

シンディーが呆れるほどの量だった。

大きな寸胴鍋が3つ分、目一杯埋まっているのだから、俺も同じように思わざるをえない。

「ご、ごめんなさい! 材料もあったし、昔はお店をやっていたので、ついその癖で……」

アリスは肩を窄めながら、ペコペコと頭を下げる。

せっかく乗り気になって喋ってくれていたのに、このままではまた過度に恐縮されかねない。

「別に気にしてないよ。せっかくだから、あとで村の人たちにも食べてもらおうか」

俺がこうフォローすると、その青い瞳は嬉しげに光を弾く。

「は、はい! ディルック様はもちろん、たくさんの人に食べてもらいたくて。あたし、ずっと召喚されるのを待ってました……!」

うん、アリスは生粋の料理人らしい。

そんな彼女がせっかく作ってくれたのだ。
冷めてしまったら勿体無い。

俺は手を合わせ、それからフォークを手にする。さっそくいただくと、

「…………うまい。こんなもの、王都でも食べたことがない……!」
これがとにかく絶品だった。