「あっ、アリスちゃんだ!」

光の中から影が見えた段階で、シンディーが嬉しげに声をあげた。

現れたのは、またしても少女だった。

真っ白の上下に身を包んでいた。

背がすらりと高く、背中に下ろした長い青髪はまるで清流のよう。

立ち姿は、高貴な家の令嬢にも引けを取らない気品がある。
彼女が長いまつ毛をまたたけば、あたりには凛と花びらが舞う。

そんな感覚にさせられた。

「お、お、お、お初にお目にかかりゅぃ…………ます、ご主人様! あぁ、あたしったらまたやってしまった……。あたし、だめだ……」

しかし、どうやら見た目とは裏腹に緊張しいらしかった。

そのうえ、ネガティヴときた。

頭に被った縦長のコック帽に、前髪ごと顔を隠してしまう。そして黙り込んでしまった。

「……えぇっと?」
「もう、アリスちゃんってば、いつもそうなんだから。ディル様、この子はアリス・アリシア。料理人さんですよ! 昔からいつも厨房に篭ってて、こんな感じなんです。アリスって呼んであげてくださいな」

シンディーが代理となって、彼女の紹介をしてくれる。
どうやら、コックさんらしい。

考えてもみない角度だったが、うん、それはそれで面白い。4000年前の文明を再現し、よりよいものを作っていくには、食文化も必須の要素だ。

「よろしくね、アリスさん」
「は、はいっ! よろしゅく……お願いします」

しかしまぁ、そこまで緊張しなくたって大丈夫なんだけどなぁ。

それに少し噛んだくらいで、どんより顔色を悪くして露骨に肩を落とす必要もない。

どうしたものかと思っていたら、ひょこっとシンディーが俺の顔を覗き込む。

「わたくしに名案がありますよ!」

と、人差し指を立てた。

どんな? と聞き返し、返ってきたのは端的な答えであった。

「お料理をつくって貰えばいいんですよ!」

たしかに、それならば間違いなさそうだ。