「これくらい、領主様のお手を煩わせるまでもありませんぜ! 我らにお任せください!」
クマベア族がさまざまな武器でもって、岩を砕きにかかる。
すると、岩は一部のみが欠けて、少し動いた。
……ん、動いた? そんなはずはないとよく見るが、たしかにそれは脈動していた。
「こ、こいつ、岩じゃありませんぜ!」
クマベア族の一人が気づいた時には、もうはっきりとそれは隆起していた。
岩が、ぼろぼろと崩れて原型をなくす。代わりに頭や胴体が、見る間にできあがっていった。
「ま、まさかこいつ岩石ゴーレム……!」
話に聞いたことはあれ、遭遇はよもやだった。
身体のどこかに宿した魔石のエネルギーで動く、魔物の一種。
危険度ランクは、Aを超えてA+とも言われている。
岩石ゴーレムに、寿命はない。
この大きさから見るに、ずっと昔に魔石が生命を宿し瘴気を吸い続け、この数年で川の流れを堰き止めるほどの大きさになったのだろう。
「グモオオオ!!!!」
長年の眠りを妨げられた怒りからか、ゴーレムはさっそく敵意を剥き出しにしていた。
俺は剣を抜き、遥か頭上を睨み付ける。一方で、クマベア族へ下がるように命じた。いくら彼らが成長し、より強くなったとはいえ、無傷で済む相手ではない。
俺とてどうなるか。
本来なら息を呑むべき場面かもしれないが、少し沸き立つものも胸の奥にはあった。剣を抜き、さっそくとばかり剣身に白龍の火を灯す。
試しに、岩を纏った足へと薙ぎを入れるが、火にも怯まず砕けもしない。
相手が相手だ。この強固な巨体とやりあうには、少し頭が要りそうである。
頭上遥か上から勢いをつけて腕が振り下ろされる。
こんなものに当たれば、即紙切れみたいに薄くなること間違いなしだ。
俺は飛びのいて避ける。大きく大地が揺れる中、クマベア族たちが逃げ終わるのを確認する一方で、俺はよくゴーレムの身体を動きを確認する。
「頼む、投擲隊! 奴に、大石を投げつけてくれ!」
「お、大石なんて投げてもあいつは倒れないんじゃ……」
「いいから、早く! 頼む、いくつもだ!」
ゴーレムの身体に比して、実に小さな石が放り込まれる。的が大きいため、そのほとんどが命中した。しかし、
「き、きかねぇ! 領主様、俺たちの手には負えねぇこいつは!」
当たりはすれど、効果はないに等しいが、もちろんここまですべて承知済みだ。
……あくまで、それ単独の攻撃ならばの話である。
白龍からもらった力も、日々ひそひそ行ってきた鍛錬の成果あってか、使いこなせるようになってきていた。
「ラベロ流・半月上弦斬り! 龍火!」
軽い身体を駆使して、俺はゴーレムの身体を駆け上り、渾身の一撃。
狙うは、ゴーレムの膝だ。
そこには、さきほどクマベア族が投げつけた石が関節付近のくぼみに嵌っていた。
ただの石ころが、楔となりかわった瞬間だった。龍の力が乗った剣は、岩石ゴーレムの膝を見事に打ち砕く。
「す、すげえぇ!!!? やっぱり領主様は、規格外すぎるぜ!!」
クマベア族が勝どきをあげるが、まだ早い。
これだけの巨体が、崩れ落ちればどうなることか。
池が、今よりもさらに埋まってしまう。
かくなるうえは、魔力の消費を気にしている場合ではない。
「お呼びかな、我が主人よ」
「うん、白龍。手伝ってくれるか? この岩石を粉々に砕きたいんだ」
「なんと! これほどの岩石ゴーレムを既に倒し終えておるとは。吾輩も昔は苦戦した相手じゃと言うのに。ははっ。さすがは我が主人よ! 末恐ろしゅうて敵わん」
……うーん、それほどの相手だったか?
まぁ、どっちにしても岩石ゴーレムの力量を測るのは後回しだ。
俺は白龍に頭の上に乗り、
「ラベロ流・星塵粉砕!」
魔力の波動を打ち付ける技を繰り出す。
白龍は白龍で、その大きな鉤爪で、岩を砕いて回る。
最後の大岩がクマベア族のいる箇所へと降っていくが、俺は咄嗟の判断で、彼らの手前へと割って入った。
これも龍の力を御し始めているからだろう。
手足にその多大な魔力を移すことで、かなりの跳躍力と俊敏さでもって、動くことができた。
最後に残った大岩を、剣尖で以て砕く。
間一髪、間に合った。
残ったのは風にさらわれるほどの砂粒と、大粒のパープル色の魔石のみだ。
それを拾い上げて、頭上の白龍に掲げて見せる。
「ふぅ、なんとかなったな。よかった、これで帰れる。ありがとうな」
「ふむ、主人の役に立ててよかったぞ」
近くに寄ってきた白龍の髭を撫でやっていると、
「り、領主様、強すぎやせんか……?」
「あぁ。それも、身を挺して俺たちを守る御心! もう、一生分の感謝を捧げてぇ!」
いつの間にか、クマベア族が両手を握り合わせ、膝をついていた。
……まぁ、とりあえず一件落着?