「実は、メイプル商会様に新商品として見ていただきたいものがございます。シンディー、例のものを」
「はいっ、こちらですね!」

彼女が、俺の背負っていたカバンから引っ張り出したのは、魔道具だ。

持ってきたのは、自動で水の注がれるグラスと、これまでにないほど明るいライトの二つである。

「これは、また珍妙な……」

商人さんは、懐からルーペを取り出して、まずその外装を確認する。

「これを売り物にしたいんですが、どうでしょう」
「……ふむ、見たことがない形で面白くはあるのですが」

顔つきが、一商人としての目に変わる。
だがもとより、俺への贔屓で売ってもらおうとは思っていない。

シンディーが、商人さんにそれらの使い方を教える。

「ほ、本当に水が沸いた!? しかも、なんだこの明るさ! これなら夜も商売できるほどだ……!」

やはり、本物だった。専門職の目利きにも、敵うものだったらしい。

「ディルック様! これを売っていただけるのですか!? ライトには一つ10万ペル、コップにも一つ5……いやこれも10万ペルは固い!」

10万ペルと言えば、働き手によっては労働者の一月分の給与にもなりうる。

うん、十分な好条件だ。

「かまいません。そのために、持ってきたんですよ。あなた方なら信頼もできます。ただ、一つ条件が」
「……そ、それは?」

ごくり、商人さんが生唾をくだす音が聞こえる。

「私の領地・テンマ村まで、キャラバンの足を伸ばしてほしいのです。後は適正額でお売りしますゆえ」
「テンマといえば、あの海沿いの村ですか。たしか、かなり小さな集落だったような覚えがあるのですが……。それもかなり遠かったような」

そう、地理的には不利である。

商売にかかる経費や、道中のリスクを思えば、なかなか難しい側面もあるのは理解していた。

けれど、俺は引かない。

「えぇ、でも土地は有り余ってますし、逆にいえば伸び代はたっぷりです。
 それに、この魔道具はその村で作る予定です。この商品を販売できるのなら、補って余りあると思いますよ」

錬金術という魔法はたしかに奇特だが、決して奇跡を起こすような魔法ではない。

今は、シンディーと俺しか作れないが、きちんと分析をすれば、量産することだって可能なはずである。