ここへきた目的は、人さらいたちの引き渡しのほかに、もう一つあった。

いや、そちらが本命と言っていいかもしれない。

俺とシンディーは、商人街へと出て目印となる紅葉紋の旗を探す。

数多いる商人の中でも、一際大きく目立っていたため、それはすぐに見つかった。
折を見て、商人に声をかける。

「私、ディルック・ラベロという者ですが……」
「なんと、これはこれは。ディルック様じゃありませんか!? おぉ、お久しぶりでございます!」

どうやら、俺のことを知ってくれていたらしい。
彼らは、『メイプル商会』という商人集団だ。国中を股にかけて、その商いを展開している大きな組織である。

王都にいた頃は、政策の連携などの関係から、親密にさせてもらっていた。

「知ってもらえていたとは、光栄です」
「そりゃ、もちろん。商人にも好意的な文官様、それも王の側近でいらっしゃる方ですから! ボスにも、名前は何度も聞いておりますよ」

まだ俺の罷免は、地方まで伝わっていないらしい。
悪気がないのは分かっていたので、言いにくいながら、事情を伝える。

「こ、これは大変失礼しました!」

途端に眉を落として、恐縮してしまった。
それから、物悲しそうに西日の差し出した空を見上げる。

「しかし、そうですか……。王都で蔓延っていた粗悪品を一網打尽にしたり、規制緩和をかけあってくれたあなたのような方がいなくなるとは国も惜しいことをする」
「はは、それは買い被りすぎですよ。今は辺境の小さな村の領主ですから」

おっと、そろそろ世間話も終わりにしなければなるまい。
昔話が長引いて日が暮れきてしまうと、厄介だ。