「でも、元の住まいに戻らなくていいんですか?」
「ふっ、恩返しもしねぇで戻れませんよ。同じドワーフたちに顔が立たねぇ」

この意見にも、反論は出なかった。

どうやら、義理堅い人たちのようだ。
本当なら、その気持ちだけを受け取り、辞退するのが美しいのだろう。なにも恩を返して欲しくて、彼らを解放したわけではない。

けれど、体裁にこだわっていられるほど悠長ではないのが、今のテンマ村である。

「なら、村の整備をお願いしたいです。少し、いや、かなり荒れてまして」

一つこれだけは、どうしてもお願いしたかった。
人手としても、技術力や戦闘力としても、彼らは頼もしい存在だ。

「そういうことなら、おらたちが力になりますよ! ドワーフは、ものづくりが得意なんでさぁ!」

と、まず了承をもらう。一方クマベア族の方はといえば、

「俺らだって、手を貸したいのはやまやまだが、村人たちに怖がられないだろうか」

腕を、獣のそれに変形させてみせ、やや顔を俯ける。
至極、当然の考えだった。
種族にもよるが、獣人は基本的に人間よりも高い身体能力を持つ。
中には凶暴な種族もいるので、その力を過度に恐れている人間は多い。そのため、獣人であるというだけで、入ることすら許されぬ街などもある。

「そこは、どうにか説得しますよ」

けれど、俺が領主となったからには、その偏見は取り払いたかった。
俺自身が『外れスキル』と扱われ、迫害されてきたこともある。

そもそも俺は、亜人だからと下に見て差別的に扱う考え方には昔から反対だ。全員が全員、凶暴だなんてあるはずがない。

「彼らなら大丈夫さ。一緒にこの牢獄のような場所で苦しんだ仲だから、分かるんだ」

同じく捕まっていた人間たちも、こう太鼓判を押してくれる。

それが、クマベア族の心を動かしたらしい。リーダーらしい男は、目に涙を浮かべて拳握る。

「そういうことなら……。警備でも力仕事でも、なんでも任せろ!」
「おう、なにせあんたには今回だけで、返しきれねぇ恩を受けたんだ」

うん。一気に、人手が増えそうだ。