空から行ってしまえば、引き潮だとか満ち潮だとかは、もはや関係なかった。
俺たちは直接、洞窟へと辿り着く。
入り口の広さによっては、そのまま白龍に蹴散らしてもらいたいところだったが、そうまで都合良くはない。
数人通るのがやっとの狭さだった。
中は危険地に違いない。俺はシンディーには外で待っててもらい、中へと立ち入る。
「だ、誰だ!? まさか侵入者か!?」
「お前らか、村から物や人を奪う悪党ってのは」
剣に手をかけながらの俺の問いに答えたのは、奥から現れた賊長らしい男だ。
昨日、襲撃してきた連中と同じ身なりをしている。
「ここがよく分かったなぁ。誰だ、テメェは」
「答える義理はないだろ」
「だったら入ってくんじゃねぇよ。突然やってきて、よそ者が文句あるのかァ?」
「……なかったら、こんなところには来てないっての。それに、もう俺もここの人間だ」
「ふん、綺麗事が好きらしいな。弱いものが搾取されるのは当たり前のことだろ、バカめ!!」
そいつはケタケタと大笑いしはじめた。洞窟内に反響して、耳鳴りへと変わる。
剣を抜いた手に、つい力が篭った。
村人たちの苦しい生活を思うと、唇を噛まざるを得ない。善良な彼らが、不法の輩に搾取されるのは間違っている。
こういう輩を許してはおくわけにはいかない。弱いものを守れてこその強さであり、それが領主たるものの使命だ。
「野郎ども、こいつをやっちまえ!! 生かして帰すなよ、ワテらの悪事がばら撒かれちまう。まとめてかかれ!」
「やられるかよ。こっちは、新米領主。早く帰って、やらなきゃいけないことが山積みなんだ」
一対多数、しかも敵の陣内。
状況こそ不利な立ち回りだったが、結果としては圧倒的だった。
白龍の火を纏った剣、それも王を守るためのラベロ流剣技をもって、敵となるような相手ではない。
あっさりと、一味すべてを薙ぎ倒すことに成功する。
「お、お前、いったい何者なんだ!? 強い、強すぎる」
リーダーの男は、水の溜まった地面に這いつくばりながら、呟きを漏らす。
「そうだ、ワテらのリーダーになってくれよ! な!? 稼げるぞ、この仕事は! お前ほど強ければ、誰でも攫うことができる! 人を売って、一生ウハウハ生活だ! どうだ、いいだろう? そう思わないか!?」
あろうことか、こんな話を持ちかけてきたので、首に手刀を打って意識を落としておいた。事に片がついて、俺は頭をかく。
「なに言ってるんだ、俺はここの領主だっての」
そこへ、シンディーが中へと入ってきた。
「早かったですね、さすがディル様! なにか喋ってたんですか?」
「ううん、大したことじゃないよ」
賊の始末を終え、俺たちは基地内を奥へと進んでいく。
奪われたのだろう食糧や物資が、山のように積まれていた。