「なんじゃ、これは……。妙に小さいのう。たしかに手にも馴染みやすいが。どれ、試してみるかの」
それから手近にあった雑草を掴んで、くいっと刈った。
「おぉ、ワシでも簡単に切れた……。ということは、この固すぎる雑草の茎も、おぉ衰えたワシの力でもあっさりじゃ!」
「ふっふっふ、それだけではありませんよ」
シンディーが、不敵に笑う。俺も、その横でにっと笑った。
確かにそのままでも便利だが、その程度じゃないのだ、これは。
そこに、明らかな差がある。現在の文明と古代の文明の間にあるレベルの差が。
「お爺さん、グリップを強く握ってください」
「あぁ、こうか?」
鎌に仕込んだ魔石が、きらりと光る。
すると、どうだ。今度は大きさが変化し、さらに握れば、今度は鍬に変わる。
「「な、な、なに、この農具!?」」
村人たちから驚きと、感嘆の声が漏れる。
さっきまではどことなく、だるそうに仕事をしていたが、士気が上向くのを肌で感じられた。
「っていうわけで、色々な形へ変化する農具です。どうでしょう、使ってもらえますか」
「むしろ、こんな素晴らしい逸品よいのですかな!? というか、これは一体どんな仕組みに…………」
「さぁ、仕組みまではちょっとまだ。でも、気に入ってもらえそうでよかったです」
ひとまず、この村を立て直すには大きな一歩となっただろうか。
俺は、シンディーと目を合わせ、微笑みを交わし合う。
と、
『領主ポイントが200溜まりました。次なる召喚まで、残り800(以降、通知なし)』
頭の中にはこんなメッセージが流れ込んできた。
「……なるほど」
今の今、領主ポイントが溜まったらしい。
ということは、領地の改善に寄与すれば、獲得できるのだろうか。
それならば、もってこいだ、とメモをつけながらにて思う。
古代文明の再現のためにも、この村や領地内の改善は必須。それをやることで、再び【古代召喚】ができるようになるのなら、一石二鳥である。
「いやはや、新しい領主様はなんて凄い方なんだ! そしてお優しい……」
「横の女性も、ありがとうございます!」
「いやぁ、こんなにいいことがあったのは数年ぶりかもしれん!」
喜び感謝する言葉が村人から飛ぶ。
だが、そこへ集落のある方から一人の村人が走ってきて、
「おい、奴らがくるぞ!!」
と叫ぶと、その歓喜の声が不意に止んだ。
打って変わって、
「なんだってこんな時に」「くそ、せっかく希望が見えたばっかりだってのに最悪だ」と頭を抱え出す。
「ディル様。こ、これは、どうかしたんですかね?」
「さぁ、俺にもわからないけど……」
しかも、みなが慌てて家の方へ帰って行くではないか。
一瞬の出来事に、俺もシンディーも頭が追いつかない。
「領主様。これから来る奴らはこの辺りを違法に占めている、賊です。要求された金や物を納めないと、その人を攫って売り飛ばす。人攫いもやるような輩なんじゃ!」
爺さんが逃げながらにして、俺へ告げる。
人攫い。そののっぴきならない響きに、俺はつい目を顰めた。
魔物がよく出る時点で、治安が悪い場所だとは思っていたが、人まで無法者が幅を利かせているらしい。
俺がくるまで、領主がしばらく不在だった影響だろうか。
いずれにしても、最低の所業に違いない。
「領主様、どうするのじゃ」
「ディル様…………!」
「二人は早く隠れているといいよ。俺は、たった今、ちょっとやることができた」
俺は、その場から一歩も動かなかった。怒りを拳に固め、そいつらを正面から待ち受ける。
「なんだ……? 逃げねぇのか、こいつ。はっはっは、カスが! とりま。こいつ、とっとと捕まえて売り飛ばそうぜ」
現れたその集団は、大声でこう宣言したのだった。捕まえられるものなら捕まえてみろ、である。