追い払われて、アクドーは苛立ちを募らせる。

周りのものに当たり散らしながら、戻ってきたのは執務室だ。

山ほど積み上がった書類と、やつれ切った部下が彼を待ち受けていた。

「あ、アクドー様……! やっとお戻りになられましたか。一つご相談がありまして」
「……僕は今すこぶる機嫌が悪いんだが」
「そう申されずに! これは王都の防衛に関する話なのです。なにやら西の山で魔物の活動範囲が広がっているという話が持ち込まれまして――」

長々とはじまったその相談に付き合う気は、さらさらなかった。

アクドーはその全てを聞き流し、一方で遠い地にいるディルックに勝手な怒りを覚える。

「それで、どうされますか。アクドー様」

いつの間にか、部下の話は終わっていた。
聞き返す気持ちになどなるわけもなく、アクドーは舌打ちをして、その部下を睨みつける。

「なんでもいい、そのままにしておけ! 僕は、もう帰る。あとは、また今度だ」

八つ当たりをし、書類を部下へと投げつける。
仕事のことなど、わずらわしい以外のなにでもなかった。今はただ、ディルックへの憎さだけが彼の中に渦巻く。

結局アクドーは、そのまま街中の酒屋へと流れ込み、客を殴るなどひと暴れして怒りを収めた。
だが、傍若無人で身勝手な彼は知る由もない。
先ほど聞き流してしまった話が、王都に魔物の侵入を許す大失策になってしまうとは。