王には媚びへつらい、部下には理不尽な要求を繰り返す。

そうして仕事をおざなりにする一方で、アクドー・ヒギンスは遊びにうつつを抜かすようになっていた。

街へ出ては、家の名前を振りかざし手当たり次第に声をかける。
中には、その権力や金に目が眩んで彼と親密にするものもいたが、

「なぁ。そろそろ話をうけてくれてもいいんじゃないか、ナターシャ」

本命は別にいた。

ナターシャ・ウォーランド。古くから続く由緒正しきウォーランド公爵家の娘であり、通称・「無の令嬢」と呼ばれる少女だ。

エメラルドグリーンの髪に、同じ色をした宝石のような瞳。
アクドーは、その儚くも気高い彼女の纏う雰囲気が気に入っており、常々こうして声をかけてきた。

今日も、こうして屋敷まで足を運んでいる。