しかし、そうと信じたくないアクドーは、

「む、むぅ……今日はここまでにしておこう」

ほとんど手をつけられなかった書類仕事を放り投げて、執務室を後にする。
後ろから追ってきたのは、直属の部下たちだ。
各事業ごとに専門的知識がいることもあり、すぐに替えが利く人員ではない。ディルックの時と同じものが留任していた。

「アクドーさま、お待ちください! まだ、こちらの書類が……」
「お前らがやっておけばよいだろう、そんなもの! 僕はもうなにもしたくない」
「し、しかし! ディルック様は全てに目を通していたのですが」

失言したとばかり部下は口元を抑えるがすでに遅い。
憎き名前に、アクドーは憤りを露わにする。

「僕の前で、そいつの名前を出すな! 次そのカスの名を言ったら首が飛ぶと思え!! 誰に口を聞いていると思っているんだ、全く。僕はヒギンス家の人間で、王の側近だぞ……?」

怒鳴りつけることで、完全に萎縮させてしまった。
アクドーはその様子を、ふんと鼻で笑って、身を翻し再び城を出て行こうとする。
残された部下たちは、

「あぁディルック様だったら、こんなことはありえなかった……。なんだ、あの横暴な態度は」
「くそ、なぜあんな人が昇格して、ディルック様が辺境の領主にさせられてしまうんだ……」
「俺はディルック様の元だから、働きたいと思えていたのに。俺、もうやめようかな」

こう、去ってしまった元上司であるディルックへと思いを馳せるのだった。
ディルックとアクドーでは、明白に人望の差があった。