「シンディー……。これ、ランプだよな?」
「はい、ランプですよ? ほら、この凸部分を押すと、ぴかっと光ります。これ一つあれば、どんな家も明るく照らせる……って、どうしました?」

ランプを持ち上げ、彼女は可愛く小首を傾げて見せる。

が、俺はと言えばそのランプに、目を釘付けにされてしまっていた。
なんてことだ。

形だけなんて、とんでもない。

俺は他のランプと明るさを比べてみる。一目でわかるほど、その性能には歴然の違いがあった。

「……こんな明るく光るランプ、見たのは初めてだ」
「え、そうなんですか? なんか元のランプだと、魔石の力を1割も活かせてなかったので、ちょっと手を入れただけですよ」

シンディーの言い様からして、これは彼女にとっては当たり前の代物なのだろう。

そう、つまり四千年前の古代ならば。

だが、これほど明るいランプは、いまの時代には存在しない。今街に出回っているものは、せいぜい枕元を照らせる程度だ。
四千年も前のことは、今では資料もなにもなく、分かっていないことが多い。
だが、だからこそどんな可能性も否定はできなかった。
彼らが、今の時代なんて目ではない、とんでもない文明を築いていたという可能性をーー。
いわゆるロストテクノロジーを、俺は見ているのかもしれなかった。

「ディル様ぁ? どうしたんですかー、わたくしを放って、ぼうっと考え込むなんて。あぁん、悩む横顔も素敵ですけど、構って構って」
「シンディー……」
「はい、あなたの愛しのシンディーですよ……って、きゃっ!」

俺は思いあまって、彼女の肩を掴む。あぁん、と甘い声を彼女は唇の隙間から漏らす。
彼女は頬を朱色に染めて、まつげを伏せながら俺を見た。

「そ、そんな! もう発情してくれたんですか? もちろん、ディル様になら構いませんよ。わたくし、この身を捧げる覚悟で召喚される時を長い時間待ち続けて――」
「もっと、他の魔道具も作ってくれないか?」

へ、と彼女は間抜けな声を漏らした。それから、なぜか肩を落とす。がっくり、一度項垂れてしまった。

「な、な、なんだぁ~。そっちかぁ、残念」

青い溜息がつかれる。

「えっと、なにか残念なことあったっけ……?」
「いえ、構いませんよ。愛の契りを交わすのは、おいおいですね。いけない、待ちすぎて我慢できてません……。えっと、とにかく! わたくしに任せてください! ディル様に期待されたおかげで、また魔力が漲ってきましたっ」

シンディーの心に、火がついたらしい。

彼女は、そこから錬金術による生産を繰り返していく。

たとえば、とんでもない明るさのランプ、魔道で水を生み出せるグラス、物を冷凍しておける箱などなど。全て見たことのない代物だった。