疲れているだろうに、彼女は上機嫌だった。

ちなみに、なにがとは言わないが、背中にあたるものが柔らかかったのはいうまでもない。

家全体こそシンディーが綺麗にしてくれたが、中にある家具類にまでは、錬金術の力は及んでいなかった。
ベッドやテーブルなどもあるにはあったが、老朽化してしまい傷んでいる。

疲労困憊のシンディーは、一旦引っ込めて休ませるつもりだった。だが、
「やっと会えたのに~、ディル様。わたくしを引っ込めるなんて言わないでくださいなっ」

と彼女は泣きついてくる。

「それに、人の英霊を召喚したら引っ込められませんよーだ。わたくし、ディル様のおそばにいますもん」

さらにはこんな事実も判明した。

なるほど、引っ込められるのは人以外の生き物だけらしい。
シンディーは強がってこそいたが、疲れは顕著だった。一旦端の方で休んでいてもらう。

一方で俺は、家具の類を錬金術を用いて、新しいものへと作り替えていった。

「おぉ、できた。ちゃんと使える机になったな……」

こなすうち、だんだん感覚が掴めてくる。
大切なのは、イメージと魔力の擦り合わせだ。いかに魔力の量が多かろうと、イメージの方が疎かでは、うまくいかないらしい。

「ディル様、わたくしめにもお手伝いを!」

そうこう試行錯誤していると、シンディーが後ろから声をかけてきた。

気づけば、かなりの時間が経っていたらしい。

探究ばかりしていた、文官時代の悪い癖が出てしまったようだ。
ともかく随分良くなった彼女の顔色に、俺はほっとする。

召喚したものは配下となるのだ。であれば、きちんとその様子を気遣うのは、俺の務めだろう。

「じゃあ、このランプに錬金魔法をお願いしていいか?」
「もちろんです、喜んで!」

打てば響く、気持ちのいい返事だった。
彼女は、さらりと錬金術を使う。さすがに手慣れていて、俺より早かった。
同等レベルの能力が与えられたところで、使いこなせるかまでは別の話らしい。
目を閉じた彼女の手から光が発される。その、数秒ののちだ。

「これくらいはお安い御用ですよ♪」

そこにあったランプは、見たこともない形のものとなっていた。