「いやはや、そうでしたか! このテンマ村の領主になられたのですか。それはよかった。長らく領主不在だったものですから、爺、感激ですぞ」
「お爺さん、領主様が引いてしまってますよ。でも、本当にあなたが領主なんて、未来に希望が持てるかも……!」

助けたのは、やはりテンマ村の住人だった。

いったん、白龍には引っ込んでもらう。村人たちが恐々として、声も出せなくなっていたためだ。

俺は、村人たちから話を伺いながら、村の中まで案内してもらうこととした。

「最近はずっと、瘴気の調子がおかしいんです。……でも、私と妹が食いっぱぐれないためには、どうしても山に行かなきゃならなくて仕方なくて」

とは、子供を連れた女性。

疲れて眠った子を寝かしつけながら言う。

どうやら両親が遠出の最中に行方不明になったとかで、歳の離れた姉妹二人で暮らしているらしい。
それにしても、である。

村で栽培しているものはないのだろうか。あれば、わざわざ危険を犯して山に採取に行く必要もないのに。

そう疑問に思いながら集落の中へと踏み入って、驚かされた。

「……えっと、ここが村…………?」

そこに広がっていたのは、かなり荒んだ光景だった。
がらんとして、数軒の家を除けば、あたり一帯に広がるのは草原だ。
畑は、ほんのひと区画だけしか見当たらない。それも、見るからにやせ細っていた。麦の苗は黄色く変色し、少ししなびている。

その奥にあるのは、廃墟じみた建物だ。
二階建てで敷地や建物の大きさは十分なものだが、なにせボロい。

窓は破れ、壁も崩れ落ち、上の瓦もはがれて今に崩れ落ちそうだ。

たしか領主の住まう館があるからそこを屋敷にすればいい、と聞かされていたけれど、もしかしてこれか?
いや、これじゃない可能性も…………

「あぁ、前の領主が住まれていたお屋敷はここです。ちょっと見た目が悪いですが」

うん、やっぱりこれだった。

村人の手前、表立っての反応こそ控えたが、これはなかなか老朽化が著しい。