「よし、じゃあ晩ご飯の前にさっくり終わらせようか」
「はいっ、愛の結晶でさっくりと!」

やたら『愛』を強く押し出してくるが、そこに反応しても仕方がないのは、もうよく分かっている。

ご機嫌なシンディーと、そんなシンディーをやはり心配するアポロとともに俺はまず廃材を空き部屋へと持ち込む。

広さは十分だが、ほとんど物がないがらんとした空間だった。
俺とシンディーは背中合わせに、その真ん中に立つ。

「では、わたくしは小物をやりますからディルさまはベッドや衣装棚のような大きなものをお願いします」
「了解。デザインとかはよく分からないから任せるよ」
「はいっ、シーちゃんにお任せを!」

分担確認ののち、「錬金生成!」との声がシンディーと揃う。

現代では消失してしまった魔法、錬金術。
この技は、同量の魔力を引き換えにして、想像が及ぶ範囲ならば、さまざまなものを作り出すことができる。

本来は細かなものを作り出す程度の魔法なのだけど…………
俺には白龍からもらった大量の魔力が、身体の中に眠っているから、大きなものだって作り出せる。

かっと眩い光が発生したのち、だんだんと視界が晴れていく。すると、あら不思議。

がらんどうだった空間が、立派な部屋になり変わっていた。

「へへん、さすがディルさま! 完璧です、完璧! あのベッドも戸棚も、廃材を変換しただなんて思えません♪ 完璧に新品ですよっ!」
「シンディーこそ、やっぱりすごいな。ここまで凝ったものは、俺には想像できないし」

思わず感嘆したのは、部屋中に散りばめられた小物の数々だ。
ただ家具を作るだけではなく、きちんと女の子らしい部屋になっている。

「えっへん。これくらい、余裕のよいですよーだ。
 ひらひらレースとか、きらきらお星さまとか、可愛い猫の絵とか、そういう可愛いものは得意なんです」

シンディーはそう言うと、腰に手をやり、軽く顎をしゃくりあげる。

「どーですか、アポロさん! これが私たちの愛の証拠ですっ」

……どうやら俺が誉めたことで、彼女は強気を取り戻したらしい。
果敢にも、アポロにこう主張して見せる。

「……相変わらず素晴らしい腕前ですね、シンディー。それからディルック様も、見事な腕前でございます」
「ふふっ、そうでしょうとも! 気に入ってくれます?」
「おおよそは。ですが、一点だけ」

アポロはそう言うと、後ろでアップにまとめ上げた髪を整えながら、ベッドに近づく。

枕元に置かれた猫のぬいぐるみをまじまじと見てから抱え上げた。