頑なにシンディーの頭を心配し、ヒールを施さんと圧をかけるアポロ。
彼女はやがて廊下の壁際まで、どんどんとシンディーを追い詰めていく。
そんな状態に、痺れを切らしたらしい。シンディーはくるりと身を翻すと、俺の右手側から左手側へと逃れた。
「あーっ!! そういえば、アポロさんの部屋はまだないですけど、どうしましょうか!?」
袖にしがみついてきて半ば俺を盾のように使いながら、わざとらしく話を切り替えるシンディー。
強引極まりないが、たしかにその件については考える必要がある。
「急に召喚しちまったしなぁ。余ってる部屋はあるか?」
「んー。アホドーの荷物は処分しちゃいましたから、なんにもない部屋ならいくつかありますよ」
必要だったとはいえ、俺の都合で召喚したのだ。
だというのに、家具一つない部屋に入れるなんて待遇はあんまりだ。
「それで問題ありません」
アポロはこう断言するけれど、俺の方が納得できない。
俺はシンディーを見て、二人でこくりと頷き合う。
てっきり錬金術で用意しようという話になるものだと思っていたら……
「こんな時こそ、愛ですね、ディルさま!」
「えっと、なんで愛……?」
まさかの愛を説かれる展開ときた。
意図がつかめずそのまま聞き返せば、下唇内側へ丸めて、シンディーは不満顔だ。
「分かってくださいな! わたくしとディル様の愛の結晶、錬金術ですよっ。アホドーの家具を処分した時に出た廃材がありますから、それを使いましょう♪」
「あぁそういうことね……」
少し認識のずれはあったものの、どうやらやりたいことは同じだったらしい。