「な、なんだ。この張り紙は? 俺を、『辺境地・テンマの領主に異動とする』だって……?」

それは、まさしく晴天の霹靂だった。

王国城門に張り出された人事異動の掲示を見て、俺、ディルック・ラベロは唖然としてしまう。

なにげない朝のはずだった。

今日も、国のため、人のため、しっかりと仕事をこなそうと思っていた矢先にこれである。

つい、持ってきていた鞄を地面に落としてしまった。そこから、ばらばらと資料の束が転がり落ちる。

慌てて拾い集めて俺は、門番に声をかけた。

「……なぜ、俺がこんなことに。あの、中には入れないのですか?」
「決して入れるな、とゲーテ王より命じられております」

「でも、なにが起きているのやらさっぱり分からないのですが」
「とにかく、ラベロ元(・)側近を決して城内に入れるな、と言いつけられています。これ以上、文句を言うようなら捕縛しますよ」

まったく、取り合ってもくれなかった。

ゲーテ王に、いったいなんの心境の変化があったというのか。

俺は頭を悩ませるが、答えが出るわけもない。思い返してみても、なんの原因も思い当たらなかった。昨日までは、むしろ良好な関係を保ってきたはずなのだ。昼の食事だって、一緒に取らせてもらったくらいだ。

俺は諦めきれず、城門の前で立ち尽くす。

ここは、王国に仕えるようになって5年、毎日のように通っていた門だ。

上部に大きく彫られた王家のイチョウ型家紋を見上げていると、ふと過去の記憶が甦ってくる。