知れば知る程、浅野は本当に魚が好きなんだと感じる。
生物室で出会ったあの日から、放課後よく遊びに来ていたけれど、話す度に浅野の知識に驚かされる。
(わたしが知らなさすぎるだけかも知れないけど)

ただ知識が豊富なだけではなく、飼育している魚達への愛情や優しさを、その眼差しや言葉の端々に感じる。
そんな浅野の話を聞くのは例え興味のない内容だったとしても、何だかワクワクした。

「浅野は本当に魚が好きなんだねぇ」
「オタクですから」
「いいよ、これからの時代強いのはオタクだよ」

最大限の褒め言葉だと思いそう口にしたが、浅野は苦笑しながら「そんなことねぇよ」と笑う。
本当にそう思ってるんだけどな。何か一つのことに打ち込んだ経験がないわたしからしたら、夢中になれることがあること自体が武器だと感じるのだ。

「わたしなんてさ、毎日友達と馬鹿騒ぎして、放課後はカラオケ行ったり買い物したり友達とお菓子パーティーしたり、何もない日は帰ってドラマ見たり漫画読んだりSNS徘徊したり、メイクの研究したり好きなモデルさんのTikTok見たり......」
「いや、めちゃくちゃ充実してるじゃん」
「いや、楽しいんだよ?別にそんな毎日が嫌いなわけでも何でもないんだけどさ。なんだろう......これ!っていうものは別に、何もなくて。浅野は履歴書に、『趣味、特技、魚!』って書けるじゃん。わたし、何も書くことないもん」

デカデカと魚!と書かれた履歴書を思い浮かべたのか、浅野はふはっと吹き出した。
案外笑い上戸なのも、最近知った浅野のひとつ。

「でも、春日井みたいなのもいいと思うよ」
「ん?どう言う意味かな?」
「いや、褒め言葉。俺、頭ん中大抵魚のこととか生き物のことばっかだから。友達100人いて、誰とでも仲良くなれるのも凄い特技だと思うよ。ほら、春日井の周りにいるタイプとはまた違う俺みたいな奴とも、現に仲良くなってるじゃん」

100人は言い過ぎだって思いながらも、そんな風に言ってもらえるとは思ってなかったので、なんだか照れくさい。
そして2人の仲を「仲良く」と言ってくれたことにもまた、照れ臭さを感じる。

「そう?」なんて照れ隠しで自信ありげにつんっとして見せる。
そんなわたしを見て、浅野はさっきより優しい笑顔で言った。

「うん。俺にはないとこだから。尊敬する」

浅野のその素直な褒め言葉に、わたしもまた素直に赤くなる。

そんな風に真っ直ぐな言葉をぶつけられたことなんてなかったから、どんな態度をとっていいかがわからない。

尊敬されることなんて、何もないと思うけど。

「......ただ単に、何も考えてない能天気な奴なのよわたしは。浅野は?部活以外は、普段何してるの?」

基本放課後は生物室にいる気がする浅野。
普段の学校生活でも、クラスも違いあまり関わることもないから、仲良くなったとはいえ知らないところも多い。

「んー、何してるだろ。家では、飼ってる魚の世話したり、飼育法調べたり、図鑑見てたり」
「いや、同じじゃん今と」
「だよね。休日は大抵出かけてるけど」
「え?どこに?」

勝手にインドアなイメージを抱いていたから、まさかの発言に食い気味に聞く。

「見てたでしょ。水族館とか。あと、関連ショップ行ったり、釣り行ったり色々」
「へー!釣りもするんだ!って、水族館もそんなに行ってるの?」

正直、一回行けば十分かなと思っていた水族館。
浅野の目にする水族館とわたしの目にするそれは、全く違うものなんじゃないだろうか。

浅野は荷物を片付けながら「よく行くよ」と笑う。
そろそろ帰る時間なのだろう。

「面白いよ、水族館。イベントで見せ方が変わったり。今は夜のアクアリウム展やってるから、今週末は夕方から行く予定」
「え?夜のアクアリウム?なにそれ」
「すげぇ綺麗だよ。夜の水族館が見れるんだ。昼間には見せてくれない魚の表情が見れたり。春日井も行ってみなよ」

嬉しそうに話す浅野を見ていると、どこか心が疼く気がした。
楽しそうな人は好き。こっちまで楽しい気分になれる。
なんでだろう。それが浅野なら、より楽しく感じる。

きっと浅野の目が、「好き」なことにキラキラしてるからだろうな。

「......ねぇ、浅野」
「ん?」
「それ、わたしも一緒に行っちゃだめ?」

わたしの心が、浅野のキラキラをもっと見たいと、言っていた。