くるくると回る様に優雅に泳ぐ丸い形を見ていると、なるほどいつまでも飽きずに見ていられる気持ちがわかる気がする。

子どもの頃、小さな球を転がすスロープのおもちゃを持っていたけど、それをエンドレスでやっていた頃の気持ちに似ている。

精神安定剤的な。水槽の中には、そうした魔法がある気がする。

「うーん、そんな風に感じたことはなかったけどな」

浅野は、魚の餌をやりながらわたしの呟きにこう返した。

「俺は単に、魚が好きだから。泳ぐ姿とか、種類によって違うところを探したりするのは楽しいよなぁ。あ、こいつはこんな風に泳ぐのか、とか。見てると、魚が今楽しいのかしんどいのかわかる様になってきたり」
「ごめん、その領域には多分一生かかっても辿り着けないわ」
「そう?だんだんわかってくるよ。水族館の大水槽なんて、小さな社会の縮図みたいだ」

今浅野が餌をやっている魚の種類すらわからないわたしには、やっぱり浅野の言うことは半分も理解できない。
でも不思議と、そんな話は嫌いじゃなかった。

「春日井さん、魚好きなら入部しようよ、生物部」
「あ、ごめん、そこは興味ないの」
「何でかなぁ。あれから頻繁に来てるじゃん」

あの日浅野がまた来てと声をかけてくれたのは、簡単に言えば部活の勧誘で。
部員1人だと、存続すら怪しいのだろう。
籍だけ置いてあげてもいい気はしたが、そこまで生物部に興味も思い入れもないし、そんなわたしが浅野しかいない生物部にいるのもなんだか気まずい気がして、入部には至っていない。

「魚にはそこまで興味ないのよ」
「じゃあなんで通ってるんだよ」
「なんだろう、浅野が話す魚の話を聞くのが楽しい......から?」
「って言う割に、知識増えないよね」

「ごもっとも」と笑いながら、わたしは水槽の中を指さした。

「そんなわたしが何度目かわからない質問をしまーす。この金魚、なんて名前だっけ?」

どれ?と覗き込む浅野。
距離が縮まって、ちょっとだけ緊張する。

「これね、ピンポンパール。うん、確か一昨日教えたね」
「そうそう!なんか跳ねそうな可愛い名前ってのだけ覚えてた」

ピンポン玉の様に丸くて、スーパーボールの様に跳ねていきそうな可愛い金魚。
金魚の種類がたくさんあることすら、わたしは知らなかった。

「うーん......やっぱり、こいつ家で飼育しようかなぁ」
「え、そんなことできるの?」
「部費で購入させてもらったんだけどね。でもやっぱり、生物室だと限界があるから。水質管理とか、結構難しい種類なんだ」
「へー。金魚って、誰でも簡単に育てられると思ってたけど。ほら、屋台でもよく売ってるじゃん」
「あれは正式に言うと金魚ではないからなぁ。金魚の中でも、こいつは結構難易度高いんだよね」

だから育ててみたかったんだけど、と言う浅野の瞳は輝いていて、こんな姿を見たいが為に、放課後の生物室に通っているんだと改めて思った。