「なに」
「いやー、べつに」
相変わらずの愛想のなさに呆れながら、瞼を伏せる。
視界の端にカップを持つ手が映り、なんとなく見つめていれば、その長い指がふいにこちらへ伸びてくるから。
びくり。驚いて、思わず顔を引いた。
「落ちるぞ」
「へ?」
「アイス」
言葉を理解して、自分の手元に視線を戻したときには、時すでに遅し。
掬ったスプーンから、溶けたアイスがぽたり、とこぼれ落ちた。制服のブラウスに染み込んで、またたく間に広がっていく。
「やば。……どうしよ」
「どうしよう、じゃねぇーよ。はよ拭けや」
荒々しく椅子を引く音が響いた。私の前にかがみ込んだ彼は、青いハンカチを乱暴に押し付けてくる。
「……っ、あの、大丈夫。自分でやる、から」
「いいって。俺のアイス係も大変だろうから、たまにはこっちも世話焼いてやらないとな。ギブアンドテークってやつ」