この公園に二人で来るのは久しぶりだった。突然、美空に話があると連れてこられたものの、何でわさわざこの場所なんだと疑問が膨らむばかりだった。

 「ねぇ鮎人、私たち別れよ!」

 春の風は温かくて、肌に触れる度に心地良さを感じた。でも、唐突に投げかけられた美空からの言葉で、心も身体も一瞬で凍りつくかのようだった。

 別れる?
 何で?
 何で、突然そんなこと?

 次々に浮かぶ疑問が頭の中を占めていく内に、胸の中に次々と美空の言葉が降ってきた。

 ひとりでずっと悩んでいたということ。
 俺との距離が離れていく度に沢山泣いたということ。

 今になってやっと気付いた。

 俺はずっと、美空を傷付け続けていたんだと。どうやって毎日を乗り越えるのかを考えた、どうやって幸せになれるのかを考えた、頭の中は気付けば全部自分のことばかりで、美空の気持ちを考えれなくなっていたのだ。

 いや、もしかしたら気付いていたのかもしれない。気付いていたけど、美空なら俺の気持ちを汲んでくれる、美空ならどんな態度をとっても許してくれる、とある種の慣れのようなものがあったのかもしれない。

 誰よりも大切にしなければいけないのは美空のことだったのに。

 ごめん、美空。
 本当にごめん。
 嫌だ、別れたくない。

 涙がとめどなく溢れて、気持ちを口にすることが出来ない。

 美空はくるりと背を向けると、ゆっくりと前へと足を踏み出した。

 俺はその背中がみえなくなるまで、何度も何度も頭を下げた。

 涙で滲んだ視界の先で、あの日花あかりを灯していた桜の最後の花びらが散った。