鮎人からの返信がきたのは、翌朝のことだった。今までは会話をするのと大差ないスピードでお互いに連絡を取り合っていたのに、その頻度も回数も少しずつ減ってきていた。
そして。
『ごめん…。今はそんな気分になれない』
画面に浮かぶ鮎人からの返信をみた時、もしかしたらもう私たちは無理なのかもしれないと思ってしまった。
願ってもいない私の予想は当たっていた。
いつかは前みたいな関係に戻れるかもと私の抱いていた儚い希望は虚しく散り、日が経つごとに、二人で会うことは疎か、学校で話すことも次第に減り、そして今では目を合わすことすら無くなってしまった。
鮎人自身は少しずつではあるが、自然な笑みを溢せるようになってきたように思う。きっと、時が悲しみを癒やしてくれるというのは本当なのだろう。
今でも私は鮎人のことが好きだ。
でも、もうこの埋まらない距離に、鮎人への想いに、嘆くのは限界だった。
それに、いつからか私が彼女でいるからこんなに辛い思いをしなければならないんだと思うようになった。鮎人も私以外の素敵な人を見つければ、きっと心を寄り添えることが出来るはずだ。
私はもう、恋人としてじゃなく、友達として鮎人を支えよう。
その気持ちを胸に秘めて、放課後に久しぶりに鮎人に声を掛けた。
「ねぇ鮎人、話しがあるの。」
鮎人は突然私に声を掛けられたことで目を丸くしていた。私はそんな鮎人の目をみつめていると、涙が溢れそうになって必死に目に力を込めた。
状況を把握していない鮎人を連れて、私はあの日の夜に二人で幸せな時間を過ごした場所に向かっていた。
そう、辺り一面に夜が満ちる中、満開の桜が花あかりを灯していたあの場所に。
「ねぇ鮎人、この場所で桜をみたこと覚えてる?」
私は、既にほとんど花びらが散り緑が目立つ桜に視線を向けて、ぽつりと言った。
「うん…。当たり前じゃん。なぁ美空いきなり何でこの場所に連れてきたんだ?」
鮎人は未だに状況を呑み込めていない様子で、訴えかけるようにして私をみつめた。春の柔らかな風が肌を撫でるように吹いて、私と鮎人の髪が静かに揺れる。
大きく息を吸い込むと、春の運ぶ甘い香りがした。
「ねぇ鮎人、私たち別れよ!」
その言葉を口にした途端に、今までの思い出が頭を駆け巡り、涙が溢れそうになる。
でも、もう何日も悩んで導き出した答えがそれだったから。後悔はしていない。
最後は笑ってお別れを告げよう。
そう決めていた。
「えっ別れようってどういうことだよ?何で?」
唐突に私から投げ掛けられた言葉に、鮎人は動揺を隠せない様子で目を大きく見開いていた。
だから、私は鮎人の代わりに、散ってしまった桜の代わりに、満面の笑みを咲かせた。
「ずっと悩んでたの。鮎人との距離が遠くなっていって一向に縮まることもなさそうだからどうしたらいいか分からなくなって、いっぱいいっぱい泣いた。でもね、ある時気付いたんだよね。私は彼女だから辛いんだって。これから友達として鮎人を支えようって。私は、彼女として鮎人の支えになることが出来なかったけど、きっと心に寄り添ってくれるような素敵な人がいるはずだから。今まで本当にありがとう。」
私が最後まで言い終える頃には、鮎人の目からはらはらと流れ落ちた涙が、頬を濡らしていた。小さく肩を震わせて、力無く崩れ落ちた鮎人をみていると、私も鼻の奥がつんとした。
このままでは泣いてしまう。
最後は笑ってお別れをしようと決めていたのに。
そう思った私は、鮎人に背を向けて一歩前に足を踏み出した。
自分の力だけでは踏み出せなかった足を、春のそよ風が背中を押してくれた気がした。
ねぇ鮎人、今まで本当にありがとう。
ごめんね、バイバイ。
心の中でそう呟き、私は茜色に染まる空を見上げた。
そして。
『ごめん…。今はそんな気分になれない』
画面に浮かぶ鮎人からの返信をみた時、もしかしたらもう私たちは無理なのかもしれないと思ってしまった。
願ってもいない私の予想は当たっていた。
いつかは前みたいな関係に戻れるかもと私の抱いていた儚い希望は虚しく散り、日が経つごとに、二人で会うことは疎か、学校で話すことも次第に減り、そして今では目を合わすことすら無くなってしまった。
鮎人自身は少しずつではあるが、自然な笑みを溢せるようになってきたように思う。きっと、時が悲しみを癒やしてくれるというのは本当なのだろう。
今でも私は鮎人のことが好きだ。
でも、もうこの埋まらない距離に、鮎人への想いに、嘆くのは限界だった。
それに、いつからか私が彼女でいるからこんなに辛い思いをしなければならないんだと思うようになった。鮎人も私以外の素敵な人を見つければ、きっと心を寄り添えることが出来るはずだ。
私はもう、恋人としてじゃなく、友達として鮎人を支えよう。
その気持ちを胸に秘めて、放課後に久しぶりに鮎人に声を掛けた。
「ねぇ鮎人、話しがあるの。」
鮎人は突然私に声を掛けられたことで目を丸くしていた。私はそんな鮎人の目をみつめていると、涙が溢れそうになって必死に目に力を込めた。
状況を把握していない鮎人を連れて、私はあの日の夜に二人で幸せな時間を過ごした場所に向かっていた。
そう、辺り一面に夜が満ちる中、満開の桜が花あかりを灯していたあの場所に。
「ねぇ鮎人、この場所で桜をみたこと覚えてる?」
私は、既にほとんど花びらが散り緑が目立つ桜に視線を向けて、ぽつりと言った。
「うん…。当たり前じゃん。なぁ美空いきなり何でこの場所に連れてきたんだ?」
鮎人は未だに状況を呑み込めていない様子で、訴えかけるようにして私をみつめた。春の柔らかな風が肌を撫でるように吹いて、私と鮎人の髪が静かに揺れる。
大きく息を吸い込むと、春の運ぶ甘い香りがした。
「ねぇ鮎人、私たち別れよ!」
その言葉を口にした途端に、今までの思い出が頭を駆け巡り、涙が溢れそうになる。
でも、もう何日も悩んで導き出した答えがそれだったから。後悔はしていない。
最後は笑ってお別れを告げよう。
そう決めていた。
「えっ別れようってどういうことだよ?何で?」
唐突に私から投げ掛けられた言葉に、鮎人は動揺を隠せない様子で目を大きく見開いていた。
だから、私は鮎人の代わりに、散ってしまった桜の代わりに、満面の笑みを咲かせた。
「ずっと悩んでたの。鮎人との距離が遠くなっていって一向に縮まることもなさそうだからどうしたらいいか分からなくなって、いっぱいいっぱい泣いた。でもね、ある時気付いたんだよね。私は彼女だから辛いんだって。これから友達として鮎人を支えようって。私は、彼女として鮎人の支えになることが出来なかったけど、きっと心に寄り添ってくれるような素敵な人がいるはずだから。今まで本当にありがとう。」
私が最後まで言い終える頃には、鮎人の目からはらはらと流れ落ちた涙が、頬を濡らしていた。小さく肩を震わせて、力無く崩れ落ちた鮎人をみていると、私も鼻の奥がつんとした。
このままでは泣いてしまう。
最後は笑ってお別れをしようと決めていたのに。
そう思った私は、鮎人に背を向けて一歩前に足を踏み出した。
自分の力だけでは踏み出せなかった足を、春のそよ風が背中を押してくれた気がした。
ねぇ鮎人、今まで本当にありがとう。
ごめんね、バイバイ。
心の中でそう呟き、私は茜色に染まる空を見上げた。