男の子ってあんなに激しいのだと由香奈も背中が縮んでしまった。背が伸びて体つきもしっかりしてきて力もついて、そんな自分を持て余しているのかもしれない。四方八方に敵意だけを巻き散らかして。

 日曜日、クレアは学校の課題で忙しいからフラワーには行けないと言っていた。由香奈は午前中でバイトをあがって賄の昼食を貰った後、夜までフラワーですごすつもりで店へと向かった。

 ランチタイムで数組のお客さんが食事をしている店内の隅っこで、ハルカちゃんのお兄ちゃんがひとりで漫画を読んでいた。
 由香奈は内心びくびくしながら、本棚の脇に座って壁に寄りかかっている彼に近づいた。あっち行けって言われるかな。冷や冷やしながら話しかける。

「あの、今日も、来てくれたんだね……」
 むすっとした表情で彼はちらっと由香奈を見上げた。
「これの続き読みたかったから」
「そうなんだ……」
 会話が終わってしまって困ったけれど、由香奈はそのまま彼の隣に蹲った。どうしよう、彼に春日井とキャッチボールをしてもらいたいのだけど、なんて言えばいいのだろう。

 暖房が利いた店内でコートも脱がずに由香奈が変な汗を浮かべていると、ハルカちゃんのお兄ちゃんはじとっと横目に由香奈を見た。
「なんか用?」
「えと、あの……」
「何怖がってんの? オレがゆかなんイジメてるみたいじゃん」

 唇をとんがらせるその頬は、なめらかで柔らかそうで、まだまだ幼い子どものそれだ。あだ名で呼ばれたことにも安堵して、由香奈は少し緊張を解く。
「あのね。天気が良いから、外で遊んだほうが……」
「すっげえ曇ってるけど」
「え……」
 すげなく返しておきながら、彼は漫画本を閉じて立ち上がった。

「ずっと座ってたから、運動するかな」
「う、うん。そうだよ……」
 すーっとハルカちゃんのお兄ちゃんは店を出ていってしまう。自分はどうしようかとしばらく由香奈は迷う。厨房のカウンターへと目を向けると、園美さんがひらひら手を振っていた。それに背中を押されて立ち上がる。