以前の化粧っけのない顔ならともかく、いくらかメイクもできるようになった今なら良いかもと思った。

 ストレートパーマをかけた艶やかな髪にハイライトのメッシュを入れたクレアは、クールな印象がさらに増して大人っぽい。
「ふたり、面白いよね」
 美容院のイケメン店長さんに言われ、由香奈とクレアは顔を見合わせる。
「何が?」
「何がですか?」
 ふたり同時に問いかけてしまい、イケメンの助手さんにも笑われた。

 クレアの用事はこれだけではなく、店長さんにある頼みごとをしていた。子どものカットを格安でやらないかという提案だ。
「いいね、それ」
 子どもを連れてくるついでに母親も利用してくれるようになれば、店にとって利益はプラスだ。取り込む自信があるのか、店長さんはふたつ返事で引き受けてくれた。

 こうしてフラワーに美容院のポスターが増えた。子どもの前髪カット百円。全体でも三百円。




 そんなこんなの間に、ハルカちゃんとそのお兄ちゃんがフラワーに通ってくるようになった。兄妹のお母さんが園美さんに挨拶しているのを見かけて由香奈はほっとした。
 ハルカちゃんは女の子たちと宿題をやったり、飾りつけを手伝ってくれたり。ハルカちゃんのお兄ちゃんは公園に行くこともあったけれど、店内でひとりで漫画を読んでいることが多かった。
 気まぐれに男の子たちの輪の中に入っても、ケンカになってしまうようだった。彼のことを春日井はずっと気にかけていたけれど、なかなか一対一でじっくり接する機会をつくれないようだった。

「うるさい! あっち行け!」
 あるとき、ハルカちゃんのお兄ちゃんが怒鳴った。子どもたちと一緒に何かするように勧めたスタッフさんに苛立ったようだった。
「あれ、クチグセなんだ」
 ハルカちゃんが頬を強張らせてスタッフさんに謝った。
「お兄ちゃんはすぐ、あっち行けって言うの」
「いいの、いいの。私もしつこくしちゃったから」

 年配の厨房のスタッフさんはショックなようだったけど、笑ってハルカちゃんに大丈夫と手を振った。