「由香奈ちゃんは……由香奈ちゃんが、どうして思いきれないのかは知らないけど、あなたは人を安心させる何かを持ってるとわたしは思う。それ、わたしにはないものだから、とても羨ましい」
 由香奈はぽかんとバカみたいに口を開けたまま園美さんの真剣な眼差しを受け止める。羨ましい? 園美さんみたいなすごい人が、自分を?

「もちろん、由香奈ちゃんがこことは関わりたくないって言うなら諦めるけど、気持ちがあるのに尻込みしてるのなら、そんなもったいないことは止めてほしい。助け手はいくらでも必要で、わたしは由香奈ちゃんに協力してほしい」
 園美さんはまた由香奈に向かって拝んで見せる。

「わ、私……」
 由香奈はただ気圧されて、何も言えない。
「ごめん。たくさんしゃべりすぎちゃったね」
 園美さんは肩を落として、いつもの朗らかな調子に戻って言った。
「ちょっと、真剣に考えてみてくれればそれでいいから。あ、じゃあ、春日井くんと子どもたち呼びに行ってくれる?」

 由香奈はこくこく頷いて公園に向かった。公園では、春日井が背の高い男の子とキャッチボールしていた。ミエちゃんとハルカちゃんたちはベンチに座っておしゃべりしている。ハルカちゃんの顔はさっきより明るく見えて、由香奈は安心した。

 公園内に入って近づいていくと、春日井が由香奈を見つけて笑った。
「由香奈ちゃん」
「園美さんが、おやつだよって」
「はーい」
 ミエちゃんが元気よく返事をしてハルカちゃんを促し、女の子たちは公園を出ていく。春日井はキャッチボールをしていた男の子にもフラワーに戻るように言った。こちらも、由香奈が初めて見る男の子だ。

 はにかんで遠慮し、もう帰ると言っている男の子に、園美さんたちが寂しがるから店に顔を出していくようにと春日井は話した。頷いて先に店に向かう男の子を見送ってから、春日井は由香奈を振り返った。
「中学生なんだ、あの子。今日、久々に来てくれて嬉しかった」
 春日井は言葉通り嬉しそうに笑う。

「わざわざ来たってことは、なんか悩みがあるんだろうなーって感じだけど」
 グローブにボールをポンポンしながら春日井は少し心配そうな顔つきになった。
「でも、こうやって来てさえくれれば、気にかけることができるから。だから、ハルカちゃんのお兄ちゃんも、来てくれないかなあ」
 季節が廻り、雲が少なく真っ青に見える空の何処ともしれない場所を見上げて、春日井はつぶやく。

「暴力的になるのってフラストレーション溜まってるからだよね。だから、ここに来てくれれば、俺がいくらでも八つ当たりの相手になるんだけどなあ」