「さて、掘り出し物を探すよ」
 言葉通り、クレアは端から順々に目を光らせて歩く。由香奈は目移りしてしまって仕方ないから、ひたすらクレアの後ろについていった。
 結果、由香奈はクレアに見立ててもらったピンクベージュのダッフルコートを四百円、クレアは濃いグレーで襟にファーの付いた細身のロングコートを六百円で購入できた。

 ゲットしたコートをさっそく羽織って会場を出て、クレアはほくほく顔で由香奈に囁いた。
「新しい服を着ると気分が上がるでしょ?」
「うん」
 裏地がもこもこしたダッフルコートは暖かくて、由香奈はまたクレアに感謝しかない。

「フラワー寄ってこうよ」
 だからその言葉にも素直に頷いた。会場中を歩いて回って疲れてもいたし。
 日曜の午後だから子どもはあまりいないだろうと思ったのに、いつも来ている女の子たちがテーブル席に陣取っていた。
「あ、ゆかなん来たー」
 おかっぱの女の子――ミエちゃんが目を丸くする。
「昨日、宿題でわからないとこ教えてもらいたかったのにー」
「ごめんね」

 小さく謝ってから、由香奈はミエちゃんの隣の初めて見る女の子の顔に目を向けた。
「ハルカちゃんだよ。同じクラス。今日初めて来たんだよね」
 うんうんとミエちゃんの言葉に頷きながら由香奈を見上げる女の子たちの間で、当のハルカちゃんは俯いたままだ。
「ハルカちゃん、おうちにいたくないっていうから、みんなでここに来たんだ」
「そうなんだ……」
 由香奈はコートを着たまま女の子たちの隣のテーブルに腰を下ろす。

「お兄ちゃんが怖いんだよね。四年生の」
「違うよ、あれ、トウヤくんが悪いんでしょ。ハルカちゃんのお兄ちゃんとケンカしたからって、ハルカちゃんを階段で突き飛ばしたんだよ」
 由香奈は驚いてハルカちゃんを見る。
「怪我しなかったの?」
「うん。お尻打っただけだったけどね」
 ミエちゃんが教えてくれてほっとする。

「ハルカちゃんのお兄ちゃん、ケンカばっかしてるんだもんね」
「男の子はそんなもんだよ」
 クレアがのんきそうに言って女の子たちの抗議を受けているのを横目に、由香奈は自分の同級生たちがどんなだったか思い出そうとしたけれど、小学生の頃のことなんてほとんど覚えていない。