由香奈の胸にぶちまけたものをティッシュで拭きとった後、学生課職員の児島は何事もなかったように面談を始めた。

「来年度の審査書類はこれでいいとして。就活の方はまだ早いんじゃない?」
「でも……」
「情報は回してあげるけど。でも、なんでもいいじゃなくて、目標をある程度決めないと」
「……。はい……」
「こっちとしてはちゃんと明確な意思を持ってる子を優先したいからさ」
「そうですよね……」
 疲労を感じて由香奈は重くつぶやく。

 話は終わりと児島は机の上の紙類をまとめ席を立つ。財布から抜き取った紙幣を由香奈に握らせた。
「またしようね」
 彼が相談室を出ていきドアが閉まる。それからそうっと由香奈も立ち上がった。




 バイトをすませ、暗くなった道を自宅マンションへ急ぐ途中、街灯のない場所でもやけに明るいことに気がついた。自分の影が夜とは思えない濃さで歩道に落ちている。もしかして、と東の空を見上げてみる。
 煌々と明るくお月様が輝いていた。白金の光を目に眩しく感じて、由香奈はすぐに顔を戻す。

 再び帰路を急いでいると、後ろから肩を叩かれた。びっくりし、怯えながら由香奈はトートバッグを胸に抱きしめる。
「あんたさ……」
 立ちすくんだまま動けない由香奈の前に回り込み、耳からイヤホンを抜きながら顔を覗き込んできたのは……。

「同じ階のコだよね」
「あ、はい……」
「ごめん、わかんなかったんだけどさ。今まで話しかけてくれてたのかなって、こないだ急に思って。あたしいつも音楽聞いてるから、シカトしちゃってたかもしれないなって」
「そんなことは……」
「そう? ならいいけど。話あったら、もっと大きな声出してね」