肌寒さを感じてもぞもぞ身動きする。枕もとがごつごつして寝心地が悪い。前髪を誰かの指が梳いているのを感じて、目を開けた。薄暗い中でも間近で見つめられていることがわかる。
　さーっと顔を強張らせて、由香奈は頭を持ち上げた。またここで寝入ってしまったのだ。
「すみません。帰ります」

　起き上がってベッドから下りようとする由香奈の腰にするりと腕が回る。無言で後ろから抱き着かれ、由香奈の中ですとんと何かが落ちる。それはそうだ、この男は大川さんのような人じゃない。

　セーターの裾から滑り込んだ手が、お腹から胸のふくらみをなぞりあげる。かっちり守られた胸元を指先が彷徨う。明らかに戸惑っているのがわかって、由香奈は笑いそうになるのをなんとかこらえた。
　このまま無理矢理される方が嫌だから、由香奈は自分からセーターを脱いで、プロテクターをはずす。

　肩先を撫でていた大きな手が後ろから乳房を包む。うなじに唇を押しつけられるのを感じながら、スカートも脱いでしまってセーターとブラジャーと一緒に畳んで床のバッグの上に大切に置く。ショーツも脱いでしまおうかと考えたが、先に男の手が滑り込んできた。

　まだ潤いのないそこを繊細な力加減で撫でられると肌が震える。由香奈は顎を引いて吐息をこらえたが、大きな手が頬にかかって上向かせられる。唇が重なって舌先が合わさる。頭の後ろがぞくぞくして足の間が熱くなる。粘液同士の接触はどうしてこんなに気持ちを高ぶらせるのだろう。

　由香奈はベッドに片膝を立て身じろぎしながら後ろ手に男の股間を探る。もうこうなったら、早く終わらせたい。右手を相手の耳の後ろに回して熱心にキスに応えながら、左手でスラックスのファスナーを下ろす。もどかしさを装いながらからだを捩ると、その手を逆にひねりあげられた。
「……っ」

　後ろ手に腕を捕られたままシーツにうつ伏せに押しつけられる。演技がばれたのか。思って由香奈は殴られることを覚悟する。男は、乱暴にしたがるくせにこっちの気持ちが入っていないと火のように怒る。だから上手にしないといけないのに、そもそも向いてないのだ、自分には。

「どうしてそんな、わざとらしいことするの？」
　今まで、交わる間は常に無言だった松田が言う。
「ごめんなさい……」
　情けなくて目に涙が滲む。
「泣くほど嫌？」
　淡々と問い詰められて何も言えない。肩を縮めてからだを固くする由香奈の背中や足を撫でながら、松田は囁く。