エレベーターホールへ向かうと、ちょうど扉が開いて同じ階に住んでいるらしい女性が降りてきた。多分、由香奈と同じく学生でいつもお洒落な服装をしている。甘い顔立ちの由香奈にはとてもできそうにないクールなファッションだ。

 由香奈はいつも彼女のことが気になるが、きちんと挨拶したことはない。
「こ……」
 言いかけた由香奈の脇を通り抜けざま目線で会釈し彼女は行ってしまう。
「……」
 今日もダメだった。落ち込みながら由香奈は誰もいないエレベーターに乗り込み一階のボタンを押した。

 秋分の日が近いがまだまだ暑い。でも一日の長さは確実に短くなり、街路を吹き抜ける夜風は涼しく感じる。
 ノースリーブのワンピースの上に羽織った薄手のパーカーの前を手で押さえ、由香奈は足早に数件先の大きなマンションの路面にあるコンビニに向かった。店内に入りまっすぐアイスボックスを目指す。

 端にある濃厚な食感で知られる高級アイスクリームのパッケージに目が行く。予算の倍以上なんだから買えるわけがない。
 由香奈はいつも好んで選ぶ小さなカップアイスを探す。定番のバニラと、秋限定の紫いものフレーバーがあった。
 由香奈はさんざん迷った末に紫いも味を選ぶ。レジで会計をし、小さなレジ袋にスプーンも入れてもらって帰り道を急ぐ。

「あ、由香奈ちゃんだ」
 エレベーターホールには顔見知りの大学生の中村がいた。
「こんばんは」
 指からレジ袋を下げパーカーの前を両手で押さえながら、由香奈は彼の斜め後ろでエレベーターを待つ。

 すると中村はわざわざ一歩下がって体を屈め、由香奈の耳元で囁きかけてきた。
「由香奈ちゃんさ、こないだ合コンでお持ち帰りされたって?」
 すうっと体が凍りつく。
「あいつ、巨乳女子食いで有名なんだよ。由香奈ちゃんに食い付くに決まってるよね」

 エレベーターが到着する。中村が固まったままの由香奈の腰に手を回して乗り込む。彼の部屋がある二階はすぐだ。
 二階のホールで扉が開くと、中村はいきなり由香奈の体を肩に担ぎ上げた。
「由香奈ちゃんゲット。今日はオレがお持ち帰りー」
 そのままずんずん二階の通路を進む。由香奈は悲鳴をあげそうになった口を手で押さえる。騒いで誰かに見られたくない。

 子どもみたいに抱っこされたまま由香奈は中村の部屋に連れていかれる。
 灯りも点けずに靴だけ脱ぎ捨て、中村は寝室に直行してベッドの上に由香奈を下ろした。そのままのしかかってくる。
「パイズリさせられた?」
 かあっと頬を赤くして由香奈は顔を背ける。

「ご奉仕だけさせられて最後までしないって。言いふらされて、あいつの性癖みんなにバレバレだから」
 同じ学校なのか中村は詳しい。考えないようにしても由香奈は恥ずかしすぎて泣きたくなる。情けない。恥ずかしい。
 必死にその感情に蓋をしようとする由香奈の太ももをなぞりあげて中村は続けた。