「でもあれ、胸元とか、丈とか……」
「じゃあさ、いつも着てるみたいなハイネックのブラウスの上から着ればいいんじゃない?」
 なんでもないことのようにクレアが提案する。
「丈はそんなに気になる? 直せるようならあたしやるから、一度見せて」

 さっきまで心配してくれてたのに、やるとなったらクレアも一直線のようだ。自分を手伝ってくれようとしているのだ、もうごねたりはできない。
「うん」
 由香奈は、覚悟を決めた。




 オープンカフェ開催の当日は、由香奈は生きた心地がしなかった。衣装自体はブラウスを重ね着して厚手のタイツを着用することで露出は気にならなくなったけれど、予想外の客層と人数に倒れそうになった。

 子どもと一緒にやって来る家族連れは予想の範囲内だったが、意外にも若いカップルや男性グループ、ふらりと利用する単身男性が多かった。
 後でクレアが教えてくれた。商店街の入り口のアニメショップで同じ日にイベントをやっていて、そこから流れてくる客が多かったらしい。

「そういうことか」
 クレアがぼそっとつぶやいていたけれど、由香奈にはなんのことだかわからない。歩行者天国の交差点に設置した客席に注文を取りに行き、オーダーのドリンクを運ぶ。それだけでいっぱいいっぱいだった。
「目的は売り上げではなく宣伝だからね」
 と園美さんがオープンカフェのメニューをドリンクに絞ってくれて良かったと思う。

 店内では、クレアが水溶性マニキュアを使ってネイル屋さんごっこを始め、順番待ちの女の子たちが行列になっていた。春日井と彼の学友による大学受験体験発表には、親たちが聞き入っていた。

 一方由香奈は、ひたすら外で右往左往していた。
「ゆかなん、カワイイ」
 常連の女の子たちが話しかけてくれた気もするが、よく覚えていない。目が回った状態でひたすら動き続け、気がつくと夕方になっていた。