「わ、すっげえ迫力」
 由香奈のカットソーを顎の下までまくり上げて名前を知らない男は笑う。由香奈の大きく柔らかいバストはブラジャーのカップの中でも溢れそうに揺れている。

「ウケるよな。胸のデカいコ連れてくるなら合コンやってやるって言ったら、ほんとに君を連れてくるんだもん」
 ああ。だから。脱力感で由香奈は膝がくだけそうになった。

『あたしたちの奢りだから』
 まだ夏季休暇中の学内の購買で買い物をしていると、テニスサークルの学生たちに声をかけられた。顔はなんとなく覚えがある気はするが、名前なんか知らない。友だちじゃないから。
『ひとりメンバー足りなくて困ってるんだ』
 由香奈は合コンなど行ったことはないし行きたいとも思わない。何よりお金がない。
 そう断ろうとするたびに押し切られ、無銭飲食の魔力に引きずり込まれてしまった。その結果がこれだ。

 居酒屋のトイレに連れ込まれ化粧台の前で服を剝かれている。他大学の学生らしいその男は、ブラのカップに指をかけてずり下げた。
「うわ、やわらけえ。色も白いね」
 乳房の片方だけカップから零れて男の手のひらに鷲摑みされている。その歪さにも興奮するらしく、男はさんざん揉みしだいた後ついには乳首を口に含んだ。

「あの、やめて……」
 聞こえているのかいないのか、酒臭い息を漏らしながら乳房を舐め回されて由香奈はただ自分の前にしゃがみこんでいる男の頭を見下ろす。
 ぎゅうっと噛みつく勢いで乳首を強く吸われる。由香奈の大嫌いなやつ。
(痛いッ)
 ちゅぽんと口を離して、男は更に酒臭い息を吐き出した。

「さすがにここじゃあなー。おれ、そういうシュミないし。ゆっくりできるほうがいいし。ホテル行こ」
「……っ」
 嫌です、と言葉にならなくて由香奈はふるふる首を横に振る。
「嫌じゃないよね? 由香奈ちゃんだってエッチ好きでしょ?」
 スカートのウエストから潜りこんだ手が下着の中まで滑り下りる。恥ずかしさに目を潤ませて由香奈は黙った。




 数日後、バイトから自宅に戻ってシャワーを浴び一息ついたとき、急にアイスクリームが食べたくなった。シャーベットとかではなく、乳脂肪分の高いこってりしたバニラが食べたい。
 我慢しようと麦茶を飲んだけど我慢できない、どうしても食べたい。
 由香奈は黄色の長財布を出して小銭を確認する。これだけしか使わないようにするため、百円と十円だけ握り閉めて部屋を出た。