御堂の横のバス停に戻って時間も確認しないままぼーっとバスを待った。田舎なのに車道だけは立派だ。なのにクルマはあまり通らない。そんなことを考えていると区画線の反対車線側をバスがやって来た。
 そうか、帰りのバスは向こう側を通るのだ。馬鹿だ。由香奈はとっさに動けずにいたが、バスは誰もいない停留所の前で止まってくれた。
「乗りますか!」
 窓を開けて運転手さんが訊いてくれる。由香奈はこくこく頷いて左右を確認し道路を横断した。



 最寄り駅のホームは、学校帰りらしい高校生でごった返していた。電車の停車位置のいちばん端の乗車番号の列で由香奈は電車を待つ。
 到着した三両編成の車両には既に別の制服の高校生でいっぱいで一瞬怯んだけれど、列に押されて車内に乗り込む。

 閉じた扉に背を預け、由香奈は周りを見回す。周囲は女子高生ばかりだ。由香奈はほっとして体を返して走りすぎていく田園風景へと目を向ける。すぐにトンネルに入ってしまい暗くなった車窓に女子高生たちの姿が反射した。

 ――由香奈をいじめるやつは父ちゃんが許さない。
 脳裏に浮かんだ声は、また明るくなった車窓の光にかき消された。

(優しいときもあったんだよな)
 後からぼんやりと由香奈は思った。




 四月に引っ越してきたばかりだというのに、既に住み慣れたと感じる街は、少なくとも由香奈にとってはここが自分の居る場所だった。

 思ったより早く帰り着いてしまった。由香奈は少し考え、フラワーへと足を向ける。今は小学生で賑わっている時間帯だろうか。

 商店街を歩いて行くと、フラワーの店頭から見たことのない女性がランドセルを背負った男の子の手を引っ張って出てきた。
「うちは貧困家庭なんかじゃありませんから! かまわないでください」
 その女性の形相に由香奈の足は凍りつく。その由香奈の脇をすり抜けて女性と男の子は足早に去っていく。「もう、どうしてあんなところに行くのっ」と涙交じりで言っている声が聞こえた。