全国各地にあるこども食堂の定義は明確にはない。強いていえば「こどもに無料、もしくは廉価で食事を提供する場所」で、個人が自営の店舗で月に一度や週に一度、子どもや母子を招いて開くこともあれば、地域の公民館が場所を提供してボランティアで開催されたり、この「フラワー」のように店舗を構えて運営されるケースもある。
 傾向として地域住民との世代間交流にも重点を置き、最近では、子どもと企業を積極的につなげる試みも行われている、らしい。

 ここでは、やって来た子どもたちを公園に連れだしたりしているから、学童保育としての役割も意識しているのだろう。壁には色画用紙の切り絵が貼られていたり、近隣で開催されるイベントのポスターや習い事の生徒募集の張り紙まであったりする。
 客席は事務テーブルに近いものだけど清潔だし、短いガーベラが各テーブルに飾られている。

「お待たせしました。オムライスです」
 とても素朴な、黄色い卵に赤いケチャップのオムライス。
「いちばん人気なんだよ。オムライス」
 わかる気がする。大人には懐かしい味だし、もちろん現役の子どもたちだって大好きだろう。
 由香奈は黙々とオムライスを食べた。
「ごちそうさまでした」
 財布を覗くと五百円玉があったので、それを一枚ブタの貯金箱に入れて食堂を出た。




 それから、アルバイトの行き帰りには必ず、フラワーに足を向けるようになった。そっと遠目に窺い、中に入ることはなかったけれど。

 夕方には子どもたちがやって来ておやつを食べたり漫画を読んだり、勉強をしているらしいことがわかった。年配の来店客が一緒にお茶を飲んでいる。
 夜遅い時間には、迎えに来たらしい母親と子どもが帰っていく様子や、女性グループが食事に入っていく様子。
 お昼時にはやっぱり女性グループや小さな子どもを連れたグループで賑わっているようだった。

 驚いたのは、午前中にとぼとぼ食堂に入っていくランドセルの男の子を見かけたときだった。小学生は学校にいる時間帯なのじゃないだろうか。
 男の子を出迎えるエプロンの黄色い色が遠目にわかる。男の子は追い返されることなく奥へと入っていった。

 別の日の午後、公園の方へ行ってみた。年長の男の子たちがサッカーボールで遊んでいた。今日は大人の姿がないなと思ったのに、
「由香奈ちゃん」
 突然背後から呼ばれ、由香奈はびくっと飛び上がる。
「あ……」
 春日井がにこにこ笑って立っている。