その映像にふと気を引かれ、由香奈は膝の上で揺られながら男の肩越しにテレビを見た。

 夜のニュース番組の特集コーナー。定食屋さんのテーブルで教科書を広げる小学生たち。映像が変わると、今度はもっと明るく広いホールで、食事をしてスイカを食べている子どもたちが映し出される。画面の右上に「急増するこども食堂 今後の課題は」の文字。

 七人に一人の子どもが貧困状態にあるとされる現在、だけど大抵の人は貧困なんてぴんとこないに違いない。だってそう、インターネットの普及率だってそうだ。普及率九十三パーセントの国に暮らしていれば「ネットで世界中と繋がれる」なんて容易く言えるけど、実際には普及率が一パーセントにも満たない国だってある。
自分の手の届く狭い世界でしかものを考えられない、みんなそうだ。自分さえよければいい。みんなそう。

 頬を寄せて促され、由香奈は松田とくちびるを合わせる。今度は由香奈が腰を回し始める。あれから回数が確実に増えて、こんな呼吸にも慣らされてしまった。そのことは考えないようにしてキスに応える。大きな手で背中を撫でられると余計に感度が高まり首筋が震える。

 ニュース番組はレジャー情報に代わり、全国の紅葉情報を伝え始めた。




 水曜日が来て、またクレアと出かけた。まずは美容院でパーマをかけられる。今度は店長から合格点をもらえ、イケメンの助手さんはにこにこしながら最後のスタイリングをしてくれた。
「ゆるふわだあ。いいなあ、由香奈はゆるふわが似合うよなあ」
「顔小さいからね。でも、せっかく素直な髪なのにパーマはもったいなかったかな」
 クレアと店長が好き勝手話しているのを聞き流しながら、由香奈はおそるおそる質問する。

「あの……毎朝こうやって整えないとならないですか?」
 とてもやってられない。また毎日ひとつに括ってしまいそうだ。
「何言ってんの由香奈。髪梳かす手間がないのがパーマのいいところじゃん。寝起きのままナチュラルでいいんだよ」
 助手さんではなくクレアが教えてくれる。ほんとかな、と思ったけど助手さんも店長も反論しなかった。


 次にミチルさんの店に向かった。由香奈はどきどきしながらミチルさんがうやうやしく籐のかごに出したブラジャーを見つめる。ソフトベージュが上品でワンポイントのカトレアの刺繍がとても優雅だ。
「なんか、あたしのと違うー」
「フルオーダーなんだからあたりまえだ。だいたいわたしは似合わないものは勧めないからね」