「頑固だなー」
 仰向けになって足を閉じようとする由香奈の膝を割ってまた滑らかになったところを手のひら全体で撫でまわされる。ぞくぞくとからだが震える。居たたまれなくて涙が出そう。

 中村はそんな由香奈の体を起こしてベッド脇の壁に手をついて立たせた。後ろから入れる気だ。由香奈は痛みに備えて息を整える。
「そうっとやるから」
 後ろから乳房に触れながらあてがわれる。後ろからされるのは苦手だ。せめて従順に由香奈は体を動かさないようにする。

「……っ」
 優しく、なんて言ったところで最後には激しく突かれる。みんなそうだ。膝が砕けそうになるのをこらえて由香奈は壁に縋る。律動が早くなる。ももを液がつたって落ちる。これは防衛だ。悦んでいるからじゃない。女の体を守るために蜜を振り絞る。

 肩を抱かれてぐしゃぐしゃに頭を撫でられる。息を弾ませながら腰を押さえつけられる。最後だけ、由香奈もまわされた腕に縋って背中を波打たせた。



「眠い。お泊まりしたい」
 由香奈を抱き枕のようにして寝入ろうとする中村を置いてホテルを出た。やることをすませたら撤収あるのみ。

 マンションに戻って五階に上がる。通路に出ると、クレアの部屋の玄関扉が開いていた。その陰から、見知らぬ男の横顔が見える。彼がこっちを見て、由香奈に向かって会釈する。
「由香奈」
 クレアもひょいと顔を出して部屋から出てきた。トートバッグを抱きしめたまま通路の端にいる由香奈のところまでふたりは歩いて来る。

「ちょうど良かった。この人、今日引っ越してきたんだって」
「春日井です」
 にこりと笑って彼は由香奈にのしの付いた箱を差し出す。
「洗剤だって。同じ学生なのに気が利いてるね。あたしは引っ越しの挨拶なんかしなかったよ」
 由香奈もだ。

「ええと、それは叔父さんの手前ね」
「オジサン?」
「ここの大家、叔父なんだ」
 管理人さんの甥? 由香奈は目を瞠る。
「ふうん」
 唸るクレアと無言の由香奈に彼は「よろしくお願いします」とお辞儀をしてから通路を戻っていった。いちばん奥の部屋へ入る。

「そもそもあそこ、空いてたんだね」
「うん……」
「そうだ、水曜にミチルさんのとこ行くとき、あたしも一緒に行くから。パーマにも行かなきゃだもんね」
「うん」
 話しながら通路を歩き始める。渡された洗剤の箱はけっこう重かった。