よくわからないけれど、クレアが真剣だったから由香奈は素直に彼女についていった。

 美容院から更に路地裏にそのお店はあった。路面店で間口がとても狭い。午後の明るい日差しが降り注ぐ戸外に比べ、室内は薄暗い。看板もないからなんの店なのかさっぱりわからない。
 年季の入った重そうなガラス扉を引いてクレアが中に入る。由香奈は恐る恐る後に続いた。

 店内には丸テーブルとスツールが三脚。その奥に短いカウンターと、その横にトルソーが置いてあった。ということは、洋服を扱うお店だろうか。
「ミチルさーん」
 カウンターの背後のカーテンに向かってクレアが呼びかける。ほどなく、ふっくらした輪郭の顔の女性が現れた。
「なんだい?」
「友だち連れてきたんだ」
「ふうん? あんたの友だちねえ」

 由香奈と同じくらいの身長で少しふくよかなその女性は、じろっと由香奈を見る。由香奈はびくっとトートバッグを胸に抱きしめる。
「……なるほどね」
 ゆっくり歩いて移動し、女性は丸テーブルの前のスツールに座った。表の自販機で買ったお茶のペットボトルを三本置いて、クレアも座る。
 目線で促されて由香奈も腰を下ろした。

「説明はこれからなんだけど」
「そうかい」
 お茶を一本取って喉を潤してから、クレアは由香奈の方を向いた。
「えーとね。ここは、補正下着の店。オーダーメイドの」
「補正下着……」
「うん、そう。補正下着ってさ、どんなイメージ?」
 よくワカラナイ。由香奈は小さく首を横に振る。

「補正とか矯正下着ってさ、ガードルでお尻を上げてお腹をひっこめて、ニッパーで腰のくびれを作って、ブラで上げて寄せて……とにかくボンッキュッボンのナイスバディにするのが目的なイメージあると思うんだけど。ここのは違うんだよ」
 クレアの説明をミチルさんも半眼になって聞いている。

「その人その人の希望のボディラインになれるように下着を作ってくれるの。……由香奈はさ、胸が大きいのがコンプレックスでしょ?」
 ずばりと言われて由香奈はクレアを見つめ返す。
「猫背だし、胸をガードする癖があるみたいだし」
「…………」
「それならさ、下着で胸を小さく見せることだってできるんだよ。ね、ミチルさん」
 ミチルさんは厳かに頷く。

「実はね……」
 ごそごそTシャツをまくり上げ、クレアはいきなり自分の胸を見せた。
「このブラ、ここで作ってもらったのなんだよ」
 由香奈は目を丸くしてクレアの上半身に見入る。