講義の後、バイトに行くまでの時間が中途半端に空いているときには、大学付属の図書館に行く。だが今日は蔵書点検のための臨時休館日だった。
 他に行く場所のない由香奈は、仕方なく自宅マンションに足を向ける。

 エントランス扉の手前で、集合ポストの前に中村の後ろ姿を見つけた。思わず回れ右する。そのまま路地を足早に歩き、結局今、ビルとビルの合間にある小さな公園のベンチに座っている。
 公園には裏道的な遊歩道へと続くレンガ敷の部分と、子どもが遊べるよう総合遊具が置いてある芝生の部分とがあって、由香奈はレンガ敷の片隅の石造りのベンチに座り芝生広場の方を眺めた。

 黄色いエプロンを身に着けた女性が、子どもたちと一緒にシャボン玉を吹いている。保母さんのようだけど、まわりにいる子どもたちは小学生みたいだ。
 市販のシャボン玉液の容器ではなく、紙コップにストローを変形させたものを挿してシャボン玉を作っている。液も手作りしたのだろうか。「おれの方が大きくできる」「うちの方が壊れにくい」そんな声がここまで聞こえてくる。

 なんの集まりだろう? 楽しそうな子どもたちの様子を眺めながら由香奈はぼんやり思う。くしゅんとくしゃみが出る。
 灼けつくような暑さの後のじとじとした不快な残暑もようやく去り、やっと秋の気配を感じられるようになっていた。




 五階でエレベーターを降りてホールを抜け、通路を行きかけたところで突然後ろから肘を取られた。びくっと飛び上がって由香奈はトートバッグを胸に抱きしめる。
 そんな彼女の腕を掴んで非常階段へと引っ張ったのは松田だ。由香奈を放そうとせずそのまま階段を四階へと下る。

(この前したばかりなのに)
 彼にしてはお呼び出しが早すぎる。部屋へと引っ張られて歩きながら由香奈は普段着の松田の背中を見上げる。

 リビングのテレビ画面の中では、賢そうな女性キャスターがニュースを読み上げていた。海外で起きた銃殺事件、国内の高齢者ドライバーによる事故のニュース、連休前に話題になっているスポット、台風の発生情報。株価の動き、現在の交通の流れ……。