路地に街灯の灯りが点く頃マンションに帰ると、管理人室の前で藤堂と松田が何かやりとりしていた。ふたりともパソコンメーカーの名前の入った段ボール箱を抱えている。
「台車で運びましょう」
「それなら自分でやります」
 松田が留守の間に届いた荷物を管理人室で預かっていたようだ。出張だったのか、背広姿の松田は大きなバッグも抱えている。

 居合わせてしまったから、由香奈は台車を押す松田を気遣い先にエレベーターに乗ってもらう。後から入って四階と五階のボタンを押した。
「あとで来て」
 四階で降りるとき、扉を押さえている由香奈に松田は低く言う。いつものように返事を待たずに通路へ進んで行く。



 その夜、時間を見計らい階段を使って由香奈は四階に降りた。松田は部屋着で新しいパソコンの接続をしていたようだった。大きなモニターはセットアップ中の画面だった。
 珍しくリビングは明るい。相変わらずテレビはつけっぱなしでバラエティ番組が流れている。

 段ボール箱や梱包材が散らばっている床を避け、松田は由香奈を暗い寝室に連れ込んだ。ベッドの上でいきなり由香奈の下着を下ろす。由香奈は驚いて足で彼を止めてしまった。
 いつもとあまりに手順が違う。そんなに余裕がないのか。

 松田が出したコンドームを由香奈が被せてやる。シーツに横たわる。男のものが侵入してくる。めりっと目の裏が一瞬赤くなる。やっぱり始めは痛い。コンドームの潤滑剤が救いだ。

 ほどなく松田は動きを止め、深く息を吐き出した。お腹の中で熱いものを感じて由香奈も足の力を抜く。

 松田はすぐに離れず、逆に上体を倒して由香奈を抱きしめた。目を閉じて息を整えながら、由香奈の髪を撫でたり手を握ったりする。由香奈は戸惑いつつ彼が離れるのを待った。

 抜かれるときにもほとぼりの残るからだは反応する。余韻がすぎてから由香奈は片足にひっかかったままだった下着をはきなおした。

「悪かった」
 お金を貰うとき言われたけれど、由香奈は一向にかまわなかった。火を点けられた後で中途半端にされれば辛いけれど、最初から手っ取り早く終わるのならばそれでいい。

 パソコンのセットアップ画面の残り時間は、あまり変わっていなかった。



 自分の部屋に戻り、由香奈は寝室のクローゼットからお菓子の空き箱を取り出した。蓋を開け、松田に貰ったお金を入れる。
 男たちから得た現金はここに貯めてある。この箱がいっぱいになったら――。
 由香奈は昏く微笑み、元の場所に箱をしまった。