ふう、と息を吐き、胸の前で手を合わせた。
「……綾《あや》に畏《かしこ》き天照《あまてらす》國照《くにてらす》統大神《すめおおかみ》の御前《ごぜん》に拝み奉り諸諸《もろもろ》の命神等《みことがみたち》世世《よよ》の御祖命《みおやみのみこと》教主命《おしえぬしのみこと》惠《めぐみ》蒙《かがう》れる人等の御前をも尊び奉りて恐こみ恐こみも白さく」
教科書でも見たことがない祝詞だ。
嘉正くんが自分で勉強して身につけたのだろう。
やっぱり嘉正くんって凄いな、と改めて尊敬の念を抱く。
心地よい声に耳を済ませた。
「統大神《すめおおかみ》の高く尊き霊威《みたまのふゆ》を蒙《かがう》り奉りて任け給ひ寄さし給ひし大命《おおみこと》の違ふ事無く怠る事無く仕へ奉ると諸諸《もろもろ》の荒《すさ》び疎《とう》ぶる禍津日《まがつひ》の禍事《まがごと》に穢《けが》るる事無く横さの道に迷ひ入る事無く言退《ことさ》け行ひ和《やは》して玉鉾《たまほこ》の直指《たださす》す道を踏み違へじと真木柱《まきばしら》太敷《ふとし》く立てて仕へ奉りし状《さま》を忝《かたじけな》み奉りつつ復命竟《かえりごとまをしを》へ奉らくを見備《みそな》はし給ひ聞こし召し給ひて過ち犯しけむ禍事を見直し聞き直して教へ給ひ諭《さと》し給ひ霊の真澄《ますみ》の鏡《ががみ》弥照《いやて》りに照り輝かしめ給ひて愈愈《いよよ》高き大命を寄さし給ひ身は健やかに家内睦び栄へしめ給ひ永遠に天下四方の國民を安けく在らしめ給へと恐こみ恐こみも白す」
最後の一文字を言い切ったその瞬間、心地よい風が吹き抜けた。
清々しい晴れた日の空を吹き抜ける風のように、温かく柔らかい。
心地良さに目を細めていると、気がつけばぴいぴいと鳴いていた入内雀たちの声が止んでいた。