「中等部までの範囲をおさらいしましょう。憑霊が正神界系の場合、身体のどの部位にどのような感応があるとされていますか? 巫寿さん」


名前を呼ばれてどきりとした。

おどおどしながら立ち上がり、必死に教科書をめくる。


「巫寿、教科書六ページに載ってるよ」


隣の席の嘉正くんが小声で助け舟を出してくれる。

教えられたページを開けてみるも、みみずのような崩し文字を読める訳もなく、「すみません、分かりません」と蚊の鳴くような声で答えた。



「この箇所が基本になってきますから、次の授業までには覚えて来て下さいね」



怒られた訳では無いけれど、淡々とそう言った先生に項垂れる。

隣の席の嘉正くんにごめんね、と謝りながら椅子に座ると、彼は変わらず「困ったら聞いてね」と微笑む。


責められている訳では無いのに心の余裕のなさが勝って、少しだけ目頭が熱くなった。


今は四限目の「憑霊観破《ひょうれいかんぱ》二」の授業中。

神道では人間は自覚の有無を問わず、必ず神憑り(かみがかり)いわゆる神様の庇護を受けた状態であるとされているらしい。

祝詞を唱えている時に頭の一部が感応することで、どの神様が憑っているのかをしるのが「憑霊観破法」という方法で、中等部3年で「憑霊観破 一」を習い、そこから高等部の三年間で「四」までを履修する。