丘に近づくと、空に煙が舞い上がっていることに気づいた。
火焔がいるのだ、と直感で悟る。
緩やかな坂を駆け上がると、臣下とともに玄信がいた。


「火焔!」


凜花の声に、振り返った玄信が瞠目する。彼は傷だらけで、左手と左脚の一部が焼けただれていた。


「……クッ、姫様! なぜここに……!?」

「あのガキ、ちゃんと伝言したみたいだな」


火焔が不敵に笑う。彼の足元には、菊丸が倒れていた。


「……伝言?」

「こいつを返してほしければお前を呼んでこいと言ったんだ。弟とお前たちの姫を交換してやる、ってな」


下卑た笑いが丘に響き渡る。


「あのガキ、『姫様は我々がお守りします』なんて言っておいて、結局は我が身が可愛いんじゃねぇか」

「違うっ……!」

「あ?」

「蘭ちゃんは『大丈夫』って……『稽古』だって……なんでもないって笑ってた……。あんなに傷だらけで、菊ちゃんが捕まってるのに……私をここに寄越そうなんてしなかった!」

「なら、どうして来た?」


凜花の瞳から、涙がボロボロと零れ落ちる。


「大事だから……」

「ハッ……! こんなクソガキがか?」

「そうだよっ! 蘭ちゃんも菊ちゃんも……聖さんも、聖さんが大事にしてる人たちも、私にとってはみんな大切なの……ッ!」

「はははっ! 大切? 笑わせるな」


喉が痛いほどに叫べば、火焔が腹を抱えるようにして笑い出した。


「お前は凜の魂の生まれ変わりで聖のつがい候補だから、凜の代わりに大事にされているだけだ。誰もお前自身なんて必要としていないのに、お前はそれでもこいつらが大切だと言うのか?」


冷たい視線が、凜花を射抜く。


「大切よ」


けれど、凜花はそこから目を逸らすことなく、彼を真っ直ぐ見据えた。


「身寄りのない私に、この人たちは家族のように接してくれた。たとえそれが凜さんの代わりでも、聖さんのつがい候補だからでも、私はすごく嬉しかった」

「へぇ。それで?」

「だから、この人たちを傷つけるなら許さない」

「ならどうする? ただの人間のお前になにができる? こいつの身代わりに俺の手に捕まるか?」

「ゥッ……ッ」


火焔が菊丸を踏みつけ、菊丸が力なくうめく。