「それは大前提だが、火焔が欲していたのは龍神の座よりも凜だ」

「えっ?」

「火焔は凜を愛していた。でも、凜が俺と番うことを決した日、愛情が憎しみに代わったんだろう……。火焔は自らの手で凜を……」

「そんなっ……!」

「俺と凜がつがいになる運命だったとはいえ、親友に愛する者を奪われるのは我慢なかったんだろうな」


凜花の目が大きく見開く。


「親友……?」

「ああ……。俺と火焔は、幼なじみで親友だった」


聖の瞳が翳る。
いつだって力強い双眸が、今は深い悲しみで満ちていた。
言葉が過去形なのも、その事実も、凜花の胸を深く突き刺す。


「だが、今はもう、親友でもなんでもない。火焔は凜の命を奪い、凜花まで狙っている。俺はあいつと戦う覚悟を決めている」

「聖さん……」


体を傷つけ合うような争い事なんて、現代の日本で生きていたときには無関係なことだった。
けれど、今は違う。
凜花も渦中にいるのだ。
彼のつがい候補である限り、これは逃れられない現実なのだ。


「凜花のことは俺が守る。なにに代えても、火焔には奪わせない」


聖の真っ直ぐな想いと言葉が、凜花の心を捕らえて離さない。
同時に、凜花に決断のときが迫っていることに気づいた。


火焔の冷たい目が、紅蘭の表情が、玄信の言葉が消えない。
もし、凜花が本当に聖と番うのならば、凜花は三人のことや聖の過去、凜のことまで受け止めた上で、覚悟を決めなくてはいけないのだ。


(そんなこと、私にできる? でも……)


知ったばかりの恋心は、たった一日でさらに大きく育った。
まるで、聖と一緒にいたいと訴えるように。
この想いを、彼を、決して失いたくない。
そう強く感じた凜花の胸には、大きな決意が芽生えようとしていた。