聖に連れられて部屋に戻った凜花は、彼に眠るように告げられた。


「凜花が眠れるまでずっと傍にいる。だから、心配しなくていい」


平常心だったのなら、羞恥が先走ったかもしれない。
けれど、恐怖心がまだ消えない凜花にとって、聖が傍にいてくれることがなによりも心強かった。


「本当にごめんなさい……。聖さんが来てくれなかったら、私……」

「もういい。俺は怒ってなどいないから謝らなくていいんだ」


布団に入った凜花の右手を、彼が優しく握りしめてくれる。
凜花は安堵感が広がっていくのを感じ、再び口を開いた。


「聖さんが来てくれる前にね、光に包まれたの」


これはどうしても伝えておかなくてはいけない気がした。


「その光が炎から守ってくれた。あの人は……凜さんの魂がそうしたんだって」

「……ああ」


聖が静かに頷き、凜花の手をギュッと握り直すようにする。


「凜花のもとにたどりつく直前、凜の魂を強く感じた。きっと、凜花を守ろうとしたんだろう」

「……凜さんはどうして私を守ってくれたのかな」


凜花の唇から零れたのは、素朴な疑問だった。
火焔の言葉をそのまま受け止めるのなら、まだ聖のことを愛しているから……ということなのかもしれない。
しかし、凜花からすれば、凜が凜花を守る理由が腑に落ちなかった。


もし自分なら、聖に新たな恋人ができたとしてその女性を守ろうとするだろうか。
きっと、できない。
まだ嫉妬がどういうものかはよくわからないが、少なくとも彼の恋人を守るような振る舞いはできない気がする。


「凜にとって、凜花は自分自身なのかもしれない。だから、凜花を守ったというよりも、自分自身を守るためでもあったのかもしれないな。なにより……」


聖の眉が下げられ、瞳に悲しみと怒りが滲む。


「二度もあいつに殺されるなど、凜だって受け入れられるはずがない」


凜がどんな風に亡くなったのかは、夢で見たときに聞いた話でしか知らなかった。
聖や火焔の話ぶりから、火焔が凜を炎で焼き尽くした張本人であることは間違いないのだろう。
凜にとっては、大きな未練が残る最期だったに違いない。
そう考えれば、聖の話にも納得できた。


「もう眠るといい。話は休んだあとにしよう」

「うん……」


凜花は、おずおずと繋いでいる手に力を込めてみる。
すると、彼が優しい笑みを浮かべた。


「大丈夫だ。ゆっくり休め」


小さく頷いた凜花の瞼が、少しずつ重くなっていく。
一睡もしていなかったせいか、そのまま程なくして意識が途切れた。