龍神のつがい〜京都嵐山 現世の恋奇譚〜

「それはこっちのセリフです! なんでこんなことできるんですか……! 私がなによりも大切にしてた写真だって知ってて、こんな……っ」

「あんたが悪いんでしょ! 人の彼氏を取っておいて、平然としてさ!」

「知りません……! 何度も言ってますが、私は大谷さんの彼氏なんて……」

「はぁ? 彼氏が『凜花ちゃんを好きになったから別れたい』って言ったのよ! よりにもよって、なんであんたなの? 友達も家族もいない、地味でみすぼらしいあんたみたいな女に、どうして私が……!」


激高する茗子を止めるように、ノック音が響く。


「なにかあった? 着替えてる子はいない? 開けるよ?」

「茗子、やばいって!」


所長の声が聞こえてくると、彼女の取り巻きふたりが焦り出す。
茗子だけは落ち着き払っていた。


「……おい、なにかあった? すごい音がしたけど……」


程なくしてドアが開き、所長が控えめに顔を覗かせる。
直後、ギョッとしたような表情になった。


「なんでもないでーす。ちょっとぶつかっちゃって」


凜花の髪はグチャグチャで、制服も乱れている。
いつも外見を綺麗に整えている茗子も、明らかになにかがあったとわかる井出立ちだった。


「そうか。仕事が終わったなら早く帰りなさい」


にもかかわらず、所長はそれだけしか言わず、彼女に意味深な視線を向けてからドアを閉めた。


「……あんたの味方になってくれるとでも思った?」


茗子が嘲笑うと、取り巻きのふたりも安堵したように笑い出す。
自分の味方なんていない。
そうわかっていたが、凜花は悔しさで顔を歪ませる。心の中は憎悪でいっぱいだった。


けれど、三対一では勝ち目はなく、この現場を見た所長もやっぱり頼れない。
悔しさを押し込めてバッグの中身を拾い、制服を脱ぎ捨てるようにして着替える。
その間にまたなにかされるかと思ったが、三人は凜花の様子を見ているだけだった。