「千年経ってもなお、あいつを愛しているのか。……哀れな女だ」


蔑むようでいて、その声色はどこか悲しそうでもあった。
しかし、思考が追いつかない凜花の視界には、再び炎を生み出す火焔の姿が映る。
炎はさきほどの比ではないほどに大きく、恐らく今度こそ逃げられない。


大きな恐怖と絶望に包まれたとき。

「凜花!」

聖の声が聞こえ、空から下りてきた彼によって舞い上がる炎の中にいる凜花の体が抱きとめられた。


「久しぶりだな、聖」

「火焔……! 貴様……!」


聖の右手が龍の皮を纏った五本爪になり、火焔に向けて火を放つ。


「また会おう」


それは火焔が生んだものよりもずっと大きかったが、炎は火焔に当たる前に彼が姿を消した。


「あのとき、俺にとどめを刺せなかったことを後悔するがいい」


どこからか響いた声が、霧に紛れるように消えていく。
凜花の目には、倒れた四人の臣下と燃え残った門が入ってきた。
駆け付けた玄信と桜火の表情は厳しく、玄信は悔しげに顔を歪めた。


「凜花」


頭上から降ってきた声に、凜花の体が強張る。


「ぁ……ッ、っ……ごめん、なさっ……」


恐怖心でいっぱいの凜花は、声を震わせながら滲む視界に聖を映す。


「無事でよかった……」


彼は凜花を責めもせず、ガタガタと震える凜花をそっと抱きしめた。


「ごめんなさい……。私……呼ばれて、っ……勝手に……」

「いいんだ。怖い思いをさせてすまなかった。もっと早く駆けつけてやれなくてすまなかった」


悪いのは、聖の言いつけを守れなかった凜花の方なのに、彼は凜花を責めるどころか自責の念に駆られているようだった。


「だが、二度とひとりで行動しないでくれ……」


泣きそうな聖の声が、凜花の胸の奥を締めつける。
彼はきっと、凜を失ったときの恐怖心と絶望感を思い出したに違いない。
そう感じた凜花は、涙を零しながら何度も頷き、謝罪の言葉を繰り返した。