龍神のつがい〜京都嵐山 現世の恋奇譚〜

「何事だ!?」


凜花を見ていた臣下たちが門の方へ向く。
その瞬間、目の前が真っ赤に染まった。
門が火に包まれたことを理解したのは、一拍遅れてからのこと。


「何奴!?」

「ここが聖様の屋敷と知っての狼藉か!」


燃える門が崩れ落ちるさなか、炎の中からひとりの男性が現れた。


まるで炎に燃えるような真っ赤な長い髪、鋭い目、そして四本爪の龍の右手。
男性が凜花の前に立つ臣下たちを火で薙ぎ払い、ふたりのうめき声が上がる。
それを気にも留めない様子の彼は、凜花の前まで歩いてきた。


「っ……!」


両脚が強張り、後ずさることもできない。
頭の中で鳴り始めた警鐘とともに、心音が大きくなっていく。


「はじめまして、凜の生まれ変わりのお嬢さん。お会いできて光栄だ」


向けられた声音はどこか優しくもあるのに、凜花は本能的に恐怖心を抱いた。


「俺は火焔(かえん)


冷酷な瞳が微かに弧を描いたが、凜花の体は震えていた。


「聖から凜を奪った龍だ」


そんな凜花に追い打ちをかけるように、火焔がうっすらと笑みを浮かべる。
刹那、凜花はさきほど自分を引き止めた声は凜だったのだ……と悟った。


「……ッ」


呼吸も上手くできないままに、なんとか足を半歩下げたけれど。

「おっと」

彼が龍の手を凜花に向けると、一瞬にして凜花の周囲が炎に囲まれた。


逃げ場を失くした凜花は、恐怖心に襲われながらも火焔と対峙するしかない。
傍にいる臣下たちは、ピクリとも動かなかった。


「お嬢さん、俺は聖の座が欲しいんだ」


不敵な笑顔が、凜花を追い詰めていく。


「お前を凜と同じようにしてやれば、今度こそあいつを殺せる」


その言葉の意味を噛み砕くよりも早く、凜花を目がけて大きな炎が飛んできた。
反射的に目を閉じそうになった凜花だが、その瞬間に激しい光に全身が包まれ、凜花の身を守るように炎を弾いた。


「……これは凜の魂の光か」


彼が苦々しそうに顔を歪め、嘲笑を零す。