「姫様のお話って、聖様のことですよね」


ふすまを閉めてふたりきりになると、風子が早々に核心に触れてきた。


「ちょっ……! 外に聞こえちゃいます……!」

「大丈夫ですよ。それより、どうかなさいましたか?」

「あの……笑わないで聞いていただけますか?」


頷いた彼女から少しだけ視線を下げ、凜花は意を決して本題を切り出した。


「一緒にいると胸が苦しくなったり、手が触れるだけで心臓が走ったときみたいにドキドキしたり……。こういうの、変ですよね?」


風子がきょとんとした表情になり、瞬きを繰り返す。
程なくして、彼女がおかしそうに「ふふっ」と頬を綻ばせた。


「わ、笑わないでって言ったのに……」

「申し訳ございません。ですが、姫様があまりにもお可愛らしくて」

「どこがですか? 私、ずっと変なのに……」

「変じゃありませんよ。好きな人といれば、誰だってそんな風になりますもの」

「えっ……?」

「姫様の場合、つがいの自覚というよりも、恋心を自覚なさったのでしょうね。龍と人間は違うと聞いていますから、姫様にはこれが自然なんじゃないでしょうか?」

「えっと……これは恋……?」

「ええ、きっと。姫様は聖様に恋をしておられるのですよ」


はっきりと指摘されて、凜花の頬がかあっと熱くなる。


確かに、少し前から聖に対する気持ちは変わり始めていた。
しかし、これが恋だというところにはまったく結びついていなかった。
恐らく、〝つがい〟という言葉ばかりに捕らわれていたせいだろう。


「聖様にはお気持ちをお伝えにならないのですか?」

「えっ……! い、いや……まだそこまでは……。実感もないですし……」

「うーん……龍同士ならつがいに出会えば一目でわかりますし、つがいと一緒にいることで姫様が感じられたような感覚も抱くのですが……。人間だとつがいかどうかはわからないので、自分の心だけが頼りになるのかもしれませんね」


戸惑うように話す風子は、いつもの様子とは違う。龍と人間では、そもそも感覚からして違うのだろうか。


「龍は、魂でつがいがわかるんですよね?」

「ええ、そうです。魂でわかるというよりも、魂が共鳴し合うのがわかるのです」

「……それはどう違うんですか?」

「言葉では説明できないというか……。でも、聖様がおっしゃるのですから、姫様が聖様のつがいであることは間違いありません。それであれば、必ず姫様にもわかるときが来ます」


彼女の言葉は、凜花にはにわかには信じられないものだった。


「ですから、焦らなくて大丈夫だと思いますよ」


けれど、向けられている眼差しが優しく真っ直ぐで、嘘だとも思えなかった。


「それから、聖様に今のお気持ちをお伝えなさったらいかがですか? 聖様はとてもお喜びになられるはずですから」


その提案には頷けなかったが、拒絶する気も芽生えなかった。
凜花がお礼を言うと、風子は優しい笑顔で首を横に振っていた。