二時間後。


「今日から煮込み料理の担当になったそうだな」


聖と向かい合う凜花は、聖がもうその件を知っていたことにたじろいだ。


「さっき、風子から聞いた。凜花が作ったのはどれだ?」

「私はまだ作ってないよ……! 作り方を教わりながら見てただけで……鍋に芋を入れたり、塩を振ったりしただけだし」

「それでも構わない。ほら、どの料理を作ったのか教えてくれ」


今夜は、特に煮込み料理が多い。
四種類あるそれらを見た彼に促され、凜花はおずおずと黒い皿を指差した。


「ああ、黄蕪(きかぶ)の煮つけか」


聖は微笑むと、真っ先にその皿に箸をつけて料理を口に運んだ。


「うまいな。塩加減がちょうどいい。凜花は料理の筋がよさそうだ」

「そんな……」


凜花は身を小さくしてしまう。
ほとんどなにもしていないのに褒められると、なんだか気まずくてむずがゆい。
しかし、彼の顔はとても満足そうだった。


「凜花も冷めないうちに食べた方がいい」


いたたまれない気持ちになりつつも小さく頷き、黄蕪の煮つけを一口食べた。


黄蕪とは、名前通り蕪に似ている。見た目はトウモロコシのように黄色く、味や食感はかぼちゃに近い。ちょうど今が旬らしい。
今日の煮つけは甘辛い味付けで、肉じゃがに似ている。よく煮込まれた黄蕪はホクホクしていて、口の中でとろけていくようだった。


食後は凜花の部屋に移動し、聖とふたりきりで過ごす。
わずか一時間ほどのことだが、忙しい彼が時間を作ってくれるだけで嬉しかった。


このときばかりは、部屋には他に誰もいない。
それもあってか、最初こそ聖とふたりきりで過ごせることに喜んでいたが、最近では緊張感を覚えるようになった。
彼と他愛のない会話を交わせることは嬉しい。
それなのに、聖とほんの少し手が触れただけで鼓動が大きく高鳴る。
笑顔を向けられると、胸の奥がギュッと苦しくなる。


これまでに感じたことがないそんな感覚に包まれるようになって、凜花は内心では戸惑っていた。
けれど、なんとなく桜火には相談できず、蘭丸たちにも言えない。


「凜花? ぼんやりしてどうした?」

「え? う、ううん……」


不意に、顔を近づけてきた彼が、額同士をこつんとくっつけてきた。
今までで一番の至近距離。
驚きすぎて変な声が漏れそうになった凜花の心臓が、外へと飛び出すかと思った。