凜花が天界に来てから、もう随分と経った。
いい加減に曜日の感覚はなくなっていたが、夏だった季節はゆっくりと秋から冬に移り変わり、赤く色づいていた庭の木々は寂しげになっている。
曜日の概念がない天界にも四季はあるらしい。
下界では四季がある国はそう多くないと聞いたことがあったが、天界でも季節を楽しめるのは嬉しかった。
蘭丸と菊丸いわく、秋はおいしい食べ物が多いのだとか。言われてみれば、夏よりもずっと野菜や果物の種類が豊富だった。
冬が深まれば雪が降り、春には夏よりももっと多くの花が咲くとも聞いている。
天界に来て三つ目の季節に入った今、凜花は季節の移ろいを楽しみにしていた。
「姫様、そろそろなにか料理を覚えてみますか?」
いつものように野菜の皮を剥いていると、少し大きくなったお腹を抱えた風子がにっこりと微笑んだ。
「いいんですか?」
「はい。包丁もすっかり上手く使いこなせるようになりましたし、ぴぃらぁがたくさん手に入ったおかげで下拵えに人数を割かなくてよくなりそうですから」
「あ、でも……それなら、私よりも他の人たちの方が……」
「そんなことはお気になさらなくていいのです。本来、姫様が調理場に入ることすら異例ですし、それも下拵えの要因としてずっとこき使っているのですもの。そろそろ聖様に叱られてしまうかもしれませんから」
彼女の表情と口調は、冗談めかしている。
凜花は気安い雰囲気が嬉しくて、ついクスッと笑った。
「それに、姫様はお料理を覚えたいのではありませんか?」
「え?」
「調味料や料理にとてもご興味をお持ちですし、もしかしたら聖様に作って差し上げたいのではないかと思っていたのですが」
確かに、調理場に入れてもらうようになって、そんな風に考えたこともあった。
しかし、図々しい考えだと思い、一度も口にしたことはなかった。
「ふふっ、当たりですね。聖様はきっとお喜びになられます」
風子の柔和な笑顔に、凜花は気恥ずかしさを感じながらも小さく頷く。
「まだ難しいと思いますけど……いつかそれができたらいいなって思ってます」
「きっと、すぐにできます。姫様は筋がよろしいですし、料理にもとてもご興味をお持ちですから。もしよろしければ、私の休憩時間にでもお教えしましょうか?」
いいんですか?と言いそうになったが、凜花は慌ててグッと飲み込む。
毎日パワフルに働く彼女を見ていると忘れてしまうが、妊娠中である。
妊娠していなくても遠慮するべきだが、いくらなんでも妊婦である風子から休憩時間を奪うわけにはいかない。
「いえ、さすがにそれは……」
「そうですか? ですが、気が変わりましたらいつでもおっしゃってください」
「ありがとうございます。……あっ、あとでひとつお訊きしてもいいですか?」
「ええ、もちろん。どんなことでもお答えいたします」
「じゃあ、えっと……仕事が終わったら少しだけ時間をください」
頷いた彼女は、煮込み料理を担当している料理係のところへ凜花を連れて行った。
いい加減に曜日の感覚はなくなっていたが、夏だった季節はゆっくりと秋から冬に移り変わり、赤く色づいていた庭の木々は寂しげになっている。
曜日の概念がない天界にも四季はあるらしい。
下界では四季がある国はそう多くないと聞いたことがあったが、天界でも季節を楽しめるのは嬉しかった。
蘭丸と菊丸いわく、秋はおいしい食べ物が多いのだとか。言われてみれば、夏よりもずっと野菜や果物の種類が豊富だった。
冬が深まれば雪が降り、春には夏よりももっと多くの花が咲くとも聞いている。
天界に来て三つ目の季節に入った今、凜花は季節の移ろいを楽しみにしていた。
「姫様、そろそろなにか料理を覚えてみますか?」
いつものように野菜の皮を剥いていると、少し大きくなったお腹を抱えた風子がにっこりと微笑んだ。
「いいんですか?」
「はい。包丁もすっかり上手く使いこなせるようになりましたし、ぴぃらぁがたくさん手に入ったおかげで下拵えに人数を割かなくてよくなりそうですから」
「あ、でも……それなら、私よりも他の人たちの方が……」
「そんなことはお気になさらなくていいのです。本来、姫様が調理場に入ることすら異例ですし、それも下拵えの要因としてずっとこき使っているのですもの。そろそろ聖様に叱られてしまうかもしれませんから」
彼女の表情と口調は、冗談めかしている。
凜花は気安い雰囲気が嬉しくて、ついクスッと笑った。
「それに、姫様はお料理を覚えたいのではありませんか?」
「え?」
「調味料や料理にとてもご興味をお持ちですし、もしかしたら聖様に作って差し上げたいのではないかと思っていたのですが」
確かに、調理場に入れてもらうようになって、そんな風に考えたこともあった。
しかし、図々しい考えだと思い、一度も口にしたことはなかった。
「ふふっ、当たりですね。聖様はきっとお喜びになられます」
風子の柔和な笑顔に、凜花は気恥ずかしさを感じながらも小さく頷く。
「まだ難しいと思いますけど……いつかそれができたらいいなって思ってます」
「きっと、すぐにできます。姫様は筋がよろしいですし、料理にもとてもご興味をお持ちですから。もしよろしければ、私の休憩時間にでもお教えしましょうか?」
いいんですか?と言いそうになったが、凜花は慌ててグッと飲み込む。
毎日パワフルに働く彼女を見ていると忘れてしまうが、妊娠中である。
妊娠していなくても遠慮するべきだが、いくらなんでも妊婦である風子から休憩時間を奪うわけにはいかない。
「いえ、さすがにそれは……」
「そうですか? ですが、気が変わりましたらいつでもおっしゃってください」
「ありがとうございます。……あっ、あとでひとつお訊きしてもいいですか?」
「ええ、もちろん。どんなことでもお答えいたします」
「じゃあ、えっと……仕事が終わったら少しだけ時間をください」
頷いた彼女は、煮込み料理を担当している料理係のところへ凜花を連れて行った。